【中学受験】リマ・トゥジュ・リマ・トゥジュ・トゥジュ(こまつあやこ)で物語読解の型を学ぶ
中学受験界隈で何やら必読本となっている『リマ・トゥジュ・リマ・トゥジュ・トゥジュ』(こまつあやこ著、講談社)を使って物語の読解ってどうするの?ってのをやっていきたいと思います。
受験に役立つ本に思うこと
中学受験のみならず、塾の先生が「これを読みなさい!」と入試頻出の小説や論説をすすめてくるのは今も昔も変わらないのでしょう。
私が小学生だった当時は「論説文の勉強のために『なだいなだ』氏の本を読め」などと言われていたものです。何を取り違えたのか今となっては知る由もございませんが、その言葉を聞いた私は数年の間、『なだいなだ』氏を『はらたいら』氏と混同しておりまして、
「やっぱりクイズダービーに出る人は違うなあ」
と妙に感心したものであります。
当時の私には確かに、
「『なだいなだ』さんに全部!」
と聞こえていたのでありました。
さて、『リマ・トゥジュ・リマ・トゥジュ・トゥジュ』でございます。
この間までAMAZONには在庫なしで転売屋さんが暗躍しておりましたが、現在は在庫がございます。入試報告会やら分析会やらでオススメされて購入された方も少なからずいらっしゃるのではないでしょうか?
私は国語の成績を上げるためにただ単に読書をするのは効果的ではないと考えております。国語の成績を上げるのには方法論がございますが、単なる読書は成績向上の方法論と結びついていないからです。それに、国語の成績を上げるための読書の方法なんて教わらないでしょ?
小学生当時の我が家では、どこから聞いてきたのか知りませんが色々な「役に立つ話」が飛び交っておりまして、と言いますか一方的に私は聞かされており、「読むといい本」なんてのもその一つでした。
で、役に立つから読め、みたいなありがたいお言葉を頂戴しまして読むものの、何のためにどうやって読むのかが納得いっていないのでちっとも身にならないわけです。
今はさらに状況が悪化しております。
インターネットを繰ってみますと情報が溢れており、情報通でなくとも一日真剣にパソコン(スマホではない)と向かい合っておりますと多くの「役に立つ話」が手に入ります。
素晴らしい時代だと思われますか?
いえ、私は素晴らしくないと思いますね。
自分で考えるプロセス抜きに手に入った情報はガラクタみたいなものです。土産物屋に並んでる鮭を口にくわえた木彫りの熊とか、古道具屋に置いてある中世の甲冑みたいなね。どこでそれ使うんだYO!ってなものです。
それどころか某掲示板ではてきめんにテンションを下げてくれる助言や噂話が並んでおります。
今回は、こういった世の中の文脈の中で提示される「役に立つ本」を本当に役に立つものにしたいと考えまして、『リマ・トゥジュ・リマ・トゥジュ・トゥジュ』を通して読書の方法を提示していきたいと思います。
本を購入した親御様も、それを読むお子さんも、中学受験の文脈で本を紹介された著者のこまつあやこさんにとってもあんまり幸せな状況とは言えませんからね。
私がもし著者だったとしたら「お願いだから買わないでください」と言いますよ。
読むための準備として、↓であれこれ書いておりますので良ければご参考まで。
心情を表す語に線を引く
国語の物語文把握の第一歩は心情を表す語に線を引くことです。語彙力と、文脈に沿って言葉を理解するスキルが必要になります。
「悲しかった」「嬉しかった」「怒った」と超ストレートに表現されていれば話はシンプルですが、そうは問屋がおろしません。そのものズバリの心情語で心情が表されているとは限らず、行動や仕草から読み取る必要が出てくるからです。
実例をあげた方がいいですよね。
『リマ・以下略』の冒頭、「1 督促女王」の見開き1ページ目から心情を表す語を抜き出してみましょう。
ごはんからココナッツのにおいがしない
新種の生きものなんかになりたくない
あわてて器から顔を離した
キョロキョロと見まわした
まだまだ気が抜けない
やーめーてー
やめて、頼むから周りの給食班に聞こえる声でしゃべらないで
わたしはこっそり、ほうっと息をつく
引用 リマ・トゥジュ・リマ・トゥジュ・トゥジュ(講談社) 著:こまつあやこ
見開き1ページ目、たった原稿用紙2枚分くらいの文章の中からこれだけ多くの心情語を抜き出すことができました。
この小説の主人公、さやは小学6年生に上がる前に突然マレーシアに行くことになります。寿司職人の父がマレーシアへ赴任することになったからです。
上記の引用部分はマレーシアから日本の公立中学校に中学2年生の9月に編入して2週間頃の出来事です。
小説の冒頭、いきなり「ごはんからココナッツのにおいがしない」で始まります。この文章から主人公がマレーシアへの懐かしさを感じており、日本にまだ馴染めていない様子がうかがわれます。
続けて、
「新種の生きものなんかになりたくない」
「あわてて器から顔を離した」
「キョロキョロと見まわした」
「まだまだ気が抜けない」
と、帰国子女の主人公が、帰国子女っぽさを消そうとして苦心している様が描写されます。
さらに、主人公のクラスメイトであるオカモトくんが、日本食を思い出せないんじゃないか、と言ったのを受けて、
「やーめーてー」
「やめて、頼むから周りの給食班に聞こえる声でしゃべらないで」
と、帰国子女だと思われるのを恐れてさえいる様子が描写されます。
なぜ主人公は帰国子女っぽさがバレるのを恐れているのか?
冒頭見開き1ページ目では判別つきません。かげでコソコソ言われるのを恐れているらしいことは書かれておりますが、それにしては大げさですし、なぜ帰国子女だと「かげでコソコソ言われる」と考えているのかがよく分かりません。
そこで、なぜ主人公がそう思い込んでいるかは判断保留としておきます。
実は、後段で「帰国子女のブログや、あるあるネタをネットでたくさん調べた」と書かれており、帰国子女は生意気だと言われてつまはじきにされるのを恐れていると判明するのですが。
そして、同じくクラスメイトの岩井くんによりこの話題がそれて、
「わたしはこっそり、ほうっと息をつく」
となります。
つまり、見開き1ページでは、
マレーシアから帰国した主人公は、まだマレーシアでの生活が懐かしいながらも、クラスメイトからかげでコソコソ言われないよう帰国子女らしさを消そうと懸命である様子が描かれています。
ここまでで見開き1ページです。で、本気で読むのであればこれを本を読み終えるまでやり続ける必要があります。
慣れればできますが、慣れないとキツいですよ。しかも正解が書いてないので線を引っ張って読解したことが合っているのか合っていないのかが分かりません。
読解における判断の保留
上で私は1点判断を保留していますが、十分な根拠がない時は判断を保留するというのも技術の一つです。
十分な根拠がないのに判断してしまうと読みがズレます。
想像しよう、的な読解に毒されておりますと間違った判断をしたり、文章中から根拠を探すことを怠ったりします。つまり、問題でバツを食らう可能性が高くなります。
ですから、読書の最中に「どうしてこんなこと思っているんだ?」とか「どうしてこんな行動したんだ?」と疑問に思う箇所が出てきましたら、問いを立て、根拠を探して、自分の言葉で飛躍なく語れるようにすると国語の勉強に役立てることができます。
そんな読み方つまらねえ!?
いや、自分勝手に読む方がつまらないんですよ。本を読むってのは勝手な解釈で読むんじゃなく、根拠を探しつつ自分で考えて自分で説明できるくらいまで没頭するから楽しいんです。
自分勝手に読んでたら途中で訳が分からなくなります。物語に着いていけなくてね。
例えば、上記の見開き1ページも想像力全開にすると以下のようにも読解できます。
コシヒカリが大好きな主人公がご飯のおかわりをゲットすべく、帰国子女らしさを消し、「日本人ならコシヒカリ食え」とクラスメイトからすすめてもらいたい様子が描かれている。
根拠なく読解するとこんな風に読むのも可能です。それでも想像力に委ねて読みたいですか?
途中で訳分からなくなって読むのを放棄しますよ。
ですから根拠をもって読む、と。
そして根拠がなく断言できないことは判断保留にする、と。
過去に童謡の歌詞を大真面目に読解しておりましたので何かの参考に。
登場人物の関係図を作成する
さて、物語を読むときにオススメしたいのは登場人物の関係図を作ることです。とりわけ小説くらいの長さになってくるとこいつを作ると読みやすくなります。
なお、物語、小説では登場人物の関係性は変化していきますので、最初の関係性を私は図にするようにしています。
『リマ・トゥジュ・リマ・トゥジュ・トゥジュ』ではこのような登場人物の関係図を作成いたしました。
物語の把握の際には登場人物間の関係性がどう変化していくのかを捉えると、物語の進行や構造をうまく把握できるようになります。
ですから、基本地点である最初の関係性を図にする、と。
関係性が変化したら、関係図に立ち戻ってどの出来事が関係性を変化させたのか、なぜ関係性が変化したのかを考えるといいですね。
全体の構造を把握する
この小説は全体として以下のように大きく4つの構造があります。私が勝手に構造に名称をつけていきました。
1.出会い
2.それぞれの居場所
3.過去と向き合うこと
4.未来へと向かうこと
1は佐藤先輩との出会い、そして吟行との出会いまで。
2は母を疑い、佐藤先輩と私が吟行ナイトに出かけて事実が判明するまで。
3は私と藤枝くんの過去、佐藤先輩と藤枝くんの過去の出来事が明らかになるまで。
4はサンタとトナカイに扮した佐藤先輩と私で藤枝くんの誤解を解くまで。
なるべく、ネタバレしないように書いたつもりです。
この小説、全体としては結構かっちりした起承転結の構造になっております。
で、この4つの構造は更に小さな構造に分かれており、これを図で表すとこんな感じになります。
上の図は新手の宇宙人ではございません。
では次にテーマを考えていきましょう。
構造からテーマ(主題)を推察する
最後にこの小説のテーマ、主題を推察していきます。
「何となくこんな感じじゃね!?」ではいけません。
この小説の構造は、1.出会い、2.居場所、3.過去、4.未来という順で成り立っております。そして、過去を肯定して未来に向けて進んでいく、というとても前向きな終わり方をしております。
思わず色々な想いが去来して私はウルッときてしまいましたよ。
それはさておき、過去と自分をやや否定的に捉えていた主人公が佐藤先輩との出会いを通して前向きに未来を志向する、という構造のお話ですので、テーマとしては
「過去を肯定することで未来はひらける」
ということなのかと。
異文化、短歌、日本社会の閉塞性とか見出そうと思えばテーマとなりうるものは色々と見出せますが、これらは味付けに過ぎないと私は考えております。
小説(本)を読んで国語の勉強に役立てるということ
てなわけで、読み方のコツや技術を中心に話を進めてまいりましたが、どうでしょう、これお子さんに「やれ!」と言ってできるような気がしますか?
少なくとも私はそんな気ちっともいたしません。
塾の宿題とかいうすっげえ分かりやすい課題ですらボヤボヤしている子供に、こんなややこしいことを実践させられるわけねえ、と思うわけですよ。
時間があって、どんな苦労もいとわないのであればいいと思いますよ。きちんと読めば力はつきます。でもね、相当パワーが必要ですよ。
私が読書で国語力がつく、という話に疑問符をつけるのはそれが理由です。熟練の指導者が相当なパワーを費やさないと読書で国語力なんてつきませんから。それをするくらいだったら、塾で解いてきた問題文を読み解く練習をする方がよっぽど効率的です。
正解も提示されてますしね。
ただ、ただし、最後に私は言っておきたいと思います。
『リマ・トゥジュ・リマ・トゥジュ・トゥジュ』は良い小説です。
国語力をつけるとか何とかいうのは抜きにして、感情を揺さぶられる小説です。ですから、よこしまな考えは捨ててただただ楽しむという目的で読んでみてはいかがでしょうか?
ちなみに異文化系の小説、他にも読みたい!と思った方は西加奈子さんの『サラバ!』を読んでみてください。めちゃめちゃ面白いです。
あわせて読みたい
最新のホカホカ記事
最新のホカホカ記事の一覧はこちらから書いている人の紹介
星一徹のプロフィールはこちらから- 前の記事
【中学受験】子供の成長曲線・発達と中学受験勉強の関係を600秒で解説 2019.03.27
- 次の記事
【中学受験】消えた中学受験塾たち 桐杏学園・山田義塾・TAP・指導会 2019.04.02