風立ちぬ 読解・解説ー中学受験の国語で満点をとる読解ロジック

風立ちぬ 読解・解説ー中学受験の国語で満点をとる読解ロジック

はじめにー風立ちぬの読解・解説

中学受験国語の読解力養成のため、物語と論説文に分けて読解を実況中継式で行ってまいりました。

さて、今日はジブリ映画であり、宮崎駿監督が「最後の作品」と宣言した「風立ちぬ」の読解をやっていきます。

何が物語の中心なのか把握しないと読解しづらく、難易度は高いと言えるでしょう。できるだけ先入観を入れず、客観的に、あるがままの映像、セリフ、音楽から読み解いていきたいと思います。

あらすじ

飛行機に憧れる二郎は夢の中でイタリアの設計士カプローニと出会います。カプローニは二郎を「日本の少年」と呼び、夢を追いかけなさいと彼に言います。それまでは憧れの対象でしかなかった飛行機を作ることが彼の夢となり、夢を叶えるため田舎から上京します。

上京途中の機関車で後に妻となる菜穂子と女中のお絹と出会います。その直後、機関車は関東大震災によって停止してしまい、怪我をしたお絹を背負って高台に避難します。菜穂子の実家はその高台からほど近い本郷にあるため、家族に知らせるべく二郎と菜穂子は二人で本郷に向かいます。家まで無事たどり着いた二人から状況を知らされ、手伝いの者がお絹を助けます。

大学で学んだ二郎は名古屋にある飛行機を製造する会社に入社します。配属は設計課、そこで彼は当初から非凡な才能を見せ一目置かれる存在となり、ドイツ視察のメンバーにも選ばれ知見を深めます。日本に戻ってきた彼は戦闘機開発を行いますが、テストの最中、彼の設計した戦闘機はバラバラになります。

失望した二郎は軽井沢で休暇を取ることにし、そこで一人の女性と出会います。その女性こそ関東大震災の時に助けた菜穂子でした。菜穂子と二郎は仲を深め、やがて父親に結婚を申し出ます。が、菜穂子は結核であることを告白し、十分に体調が戻ってから結婚することにします。そして二郎は休暇を終えてまた元の職場に戻ります。

職場に電報が入り、菜穂子が喀血したのを知った二郎は菜穂子のもとへと駆けつけます。病状は悪化しており、菜穂子は高原病院(サナトリウム)に入る決意をします。ところが高原病院での生活と二郎に会えないことに耐えられなくなった菜穂子は山を下り、二郎の下宿先(上司の黒川氏宅)に押しかけ、二人の結婚生活が始まります。

菜穂子の病状は日に日に悪くなりますが、開発が佳境を迎えていた二郎は彼女を十分に看病できません。二郎の下宿先を訪れた妹からも高原病院に戻すように説得されますが彼は断ります。

二郎が開発に携わった戦闘機のテスト飛行の日、菜穂子は下宿先を飛び出し高原病院に戻ります。同時に二郎の開発した戦闘機のテストは成功に終わります。

その後、戦況は徐々に悪化します。最後のシーンは彼の夢の中。飛行機の残骸の中を歩いていくとカプローニが現れます。「君の10年はどうだった」と彼は聞きます。二郎は「最後はズタズタだった」と言います。そこへ菜穂子が現れ、「生きて」と言い残し消えていきます。

「風立ちぬ」の主体

何がこの物語を動かしていたのか

さて、いつものように転換点を発見していきましょう、と言いたいところですが転換点は物語を動かす主体が明らかにならなければ発見できません。

 

ではその主体は誰か?

 

普通に考えれば二郎です。

が、二郎を主軸に据えると転換点らしい転換点が発見できません。転換点の発見には行動様式の変化や目的の変化に着目するのですが、二郎の行動様式も目的も当初からほとんど変化していません。

二郎に着目すると「夢でカプローニに出会った」以後、目的は「美しい飛行機を作ること」で一貫していますし、基本的にその行動様式は菜穂子が現れても一向に変化しません。

菜穂子が死にかけていても彼の思考、目的、行動は一切変わりません。

 

では菜穂子か?違います。カプローニか?それも違います。

 

この物語の主体は誰か、あるいは何か?物語の変化を最もよく説明するためには「二郎の夢=飛行機」に注目します

実はこの物語では「二郎の夢=飛行機」の在り方が変化していっています。この変化に気づくと「風立ちぬ」をうまく読み解くことができます。

では「二郎の夢=飛行機」の在り方を変化させた主体は何か?その答えは最後に明らかにします。

「風立ちぬ」の「風」とは何か

物語の重要な場面で必ず風が吹いているのに気づいたでしょうか?

 

カプローニとの邂逅

機関車の中での菜穂子との出会い

菜穂子との2回目の出会い(パラソルが風で飛ばされた場面)

戦闘機のテストに成功した場面(同時に菜穂子が高原病院に戻る)

夢の中で菜穂子が消えてしまう場面

 

以上から「風」は物語を読解する上で重要な要素だと考えられます。

では「風」とは何か?

「風」が何の隠喩なのかは手順に沿って後ほど明らかにしたいと思います。

転換点を発見する

第一の転換点

二郎の夢の中でカプローニに「夢を追いかけろ」と言われたことです。

この言葉によって、飛行機がただの憧れの存在から、作る存在へと変わります。二郎の夢=飛行機の在り方が変化しています。

その証拠にカプローニに近眼でも飛行機を作れるのか、と二郎は聞いています。この出来事の前までの二郎は自分が飛行機を作れるとは思っていなかったのです。

第二の転換点

二郎が飛行機、それも戦闘機の製造を行う会社に入ったことです。

二郎の夢は「美しい飛行機を作る」ことでした。会社に入る前までの二郎は無邪気に飛行機を作りたい、と考えていましたが。この時点で飛行機は飛行機でも戦闘機を作る、という目的に変化しています。

ここでも二郎の夢=飛行機の在り方が変化しています。

第三の転換点

二郎の作った紙飛行機が「風」に乗って菜穂子に届いたことです。

失望を癒すため訪れた避暑地で再会した菜穂子の部屋に向けて二郎は紙飛行機を飛ばします。この紙飛行機は翼の形状から、後に二郎が開発を成功させる戦闘機を模しています。

ここでは二郎の夢=飛行機が運命の女性と結びつける存在に変化しています。

 

ところが菜穂子とのちに結婚すると戦闘機の開発が忙しいことを理由に菜穂子の看病を怠り、結果として菜穂子の死期を早めてしまいます。菜穂子と二郎を結びつけ、逆に菜穂子の死期を早める存在として二郎の夢=飛行機が描かれています。

第四の転換点

二郎が設計した飛行機がテストをクリアしたことです。

これにより二郎の設計した飛行機が実戦配備されることとなりました。

この出来事が意味するのは二郎の夢=飛行機が人を殺し、街を破壊する存在になったということです。

また二郎が飛行機の完成に注力するあまり菜穂子は高原病院に逆戻りし、やがて死んでしまったと想像されます。

二郎の夢=飛行機は他人を殺すだけでなく、菜穂子を死に追いやる存在となったのです。

転換点のまとめ

  1. 飛行機は憧れの存在だった
  2. 飛行機は作る存在になった
  3. 飛行機を作る夢は戦闘機を作る現実へと置き換わった
  4. 飛行機は菜穂子と二郎を結びつける存在になったが同時に菜穂子の死期を早めた
  5. 二郎の夢は、人を殺し、街を破壊する飛行機を作り出した

少年時代の夢、カプローニの言葉

カプローニは少年の二郎に夢の中で言いました。

「戦争のためではなく、商売のためでもなく夢を追いかけろ」と。

ところが二郎は「美しい飛行機を作りたい」と願い、理想を追い求めた結果「人を殺し、街を破壊する」道具を作り、その道具は「会社に利益をもたらす」のです。

一体どうしてそうなってしまったのでしょうか?カプローニはおろか、二郎だって求めていなかった結果がもたらされています。

 

二郎はぶれずに理想を追いかけ、まるで少年がそのまま大人になったかのように夢を見続けました。その結果がこれです。

二郎の夢=飛行機、当初は純粋な思いだった夢を無残な形に変えてしまったのは何でしょうか?

 

この答えが「風立ちぬ」の物語を背後から動かし続けていた主体です。

構造を把握するー転換点の背景とその後の行動

第一の転換点の背景と行動

カプローニに「夢を追いかけろ」と言われる前、二郎は想像の飛行機を飛ばしています。二郎は並々ならぬ憧れを飛行機に感じていました。

さて、ここで出てくるカプローニは誰なのでしょうか?本物のカプローニ?違います。人の夢の中に他の人の夢が混ざることはありません。夢の中の存在は、夢を見ている主体の意識、無意識が反映されます。

したがって、カプローニの言葉は夢を見ていた二郎自身の言葉であると理解します。

カプローニが「夢を追いかけろ」と言ったのは自分自身への鼓舞であり、決意であったと理解します。

第二の転換点の背景と行動

戦闘機を製造する会社に入社するのは、飛行機を作る夢を追うには個人では無理で組織に入る必要があると考えた二郎の現実的判断です。

二郎は理想とする「美しい飛行機」を作るためには戦闘機=人を殺す道具を作ることをも厭わないと考えたのです。ここから二郎は目的のためには手段を選ばない人物だと推測されます。

そこからの二郎はより速く、より強い戦闘機を作ることに邁進します。

第三の転換点の背景と行動

菜穂子と紙飛行機のやり取りをするうちに二人は親密となり婚約します。パラソルを飛ばされたシーン以後で二人が心を通わせ、婚約に至る心持ちとなるようなやり取りは紙飛行機のやり取りしかありません。

 

ところで関東大震災の時に女中のお絹と菜穂子の二人と出会い、二郎は明らかに女中のお絹を好きになっていました。

二等車に二人が戻るシーンでは、女中のお絹がアップになり、菜穂子は後方で少女らしく無邪気に手を振っていました。アニメでは意味のないシーンはありません。女中のお絹がアップで、菜穂子が後方にいたのは偶然のカットではありません。

これは二郎の意識がお絹に向いていたのを映像で表現しています。

関東大震災で機関車から降りて以後のシーンでは二郎がお絹をおんぶします。多分に推測が入りますが、二郎が大人の女性と肉体的に密着したのはこれが初めてだったのだと思います。

そして初めて大人の女性として意識したのだと思います。

大学入学後のシーンで、お絹がシャツとモノサシみたいなのを届けたシーンは決定的です。お絹が去った様子を心の中に描いている様子から二郎はお絹を好いていると判断します。

 

さて、軽井沢での紙飛行機の出来事により二郎と菜穂子は病状が良くなったら結婚しようと約束します。が、どんどん悪化していく病状と、二郎に会えない苦しさから菜穂子は二郎の下宿を訪れます。

下宿で同居し始めたものの、二郎の仕事が忙しく十分に看病できず、菜穂子は弱っていきます。

第四の転換点の背景と行動

テストを行なっていた背景は彼がチーフエンジニアとして戦闘機の開発に携わっていたことです。それが殺人のために使われる機械だったとしても彼は戦闘機を作るのに全精力を傾けます。

その後、日本の戦況が悪化していきました。夢の中で二郎の設計した戦闘機は無残にも壊れ、その残骸を間を縫って歩いていくうちにカプローニと出会います。

カプローニは「君にとっての10年はどうだったのか」と聞きますが、二郎は「最後はズタズタだった」と言います。

すると、菜穂子が現れ「生きて」と言い、二郎は生きることを決意します。

 

さて、ここで出てくる菜穂子ですが、二郎の夢の中なので本物の菜穂子ではありません。あくまで、二郎が出現させた、自分にとって都合の良い菜穂子です。その菜穂子の「生きて」と言うセリフは、二郎が喜んで人を殺す機械を作り、人を殺す機械を開発するために菜穂子の死期を早めてしまった事実を免れたいと思う身勝手な気持ちにより発せられています。

普通の神経だったら菜穂子にごめんなさい、じゃないですかね?ありがとう、ではないですよ。ありがとう、では菜穂子が二郎の行為(重病の妻を放っておき、自分の夢を追いかけ、結果として妻を殺したにも等しい行いをした)を許していることになります。菜穂子は優しいから許したかもしれませんよ。でもまず謝るのが先でしょう!

 

二郎は生前の菜穂子への態度だけを見ると冷酷な人物に見えます。

しかしよく考えていただきたい。なぜ物語冒頭、二郎の少年時代にわざわざいじめっ子の上級生から下級生を守るシーンを描いたのか、なぜ関東大震災の時にお絹をおぶって高台まで連れて生き、少女時代の菜穂子を連れて危険を顧みず本郷の自宅まで送るシーンを描いたのか。

このシーンからは二郎が正義感が強く優しい人物と推測できます。ですが、結婚後の菜穂子に対する態度は冷酷です。

 

何が彼を変えたのでしょうか?

夢の在り方の変遷、彼を変えたもの

構造を明らかにする

  1. 飛行機に憧れ、夢の中で飛行機を駆る
  2. カプローニとの出会いから美しい飛行機を作ることを決意し勉強のため上京して美しい飛行機を作ろうと努力する
  3. 美しい飛行機を作る夢は会社で戦闘機を作る現実にとって代わられ、それでも二郎は美しい飛行機を作る夢を叶えるべく戦闘機の開発にいそしむ
  4. 戦闘機の飛行テストに失敗し失望の中、軽井沢で休暇をとっている最中菜穂子と再開し、二人は恋をして婚約。その後、結婚をするが飛行機の開発に没頭し徐々に菜穂子の病状は悪化する
  5. 念願の戦闘機の飛行テストにクリアし夢を実現するが菜穂子は死に、自分の夢だった美しい飛行機を開発したことで多くの人を死に至らしめる

 

では夢の飛行機の在り方はどう変わっていったでしょうか?

  1. 憧れとしての存在
  2. 作る対象としての存在
  3. 戦闘機としての存在
  4. 菜穂子と結びつけ、同時に菜穂子の死期を早めた存在
  5. 多くの人を死に追いやった存在

 

物語をさらに読み解くために「風」というキーワードと、二郎を変質させてしまった得体の知れない何かを読み解いていこうと思います。

「風」に注目する

「風」が吹いた時にはこのようなことが起きています。

  • カプローニとの邂逅
  • 機関車の中での菜穂子との出会い
  • 菜穂子との2回目の出会い(パラソルが風で飛ばされた場面)
  • 戦闘機のテストに成功した場面で風が二郎を通り過ぎていく(同時に菜穂子が高原病院に戻る)
  • 夢の中で菜穂子が消えてしまう場面

 

問:上記の出来事を満たす「風」とは何の隠喩か選べ。

1.夢

2.出会い

3.希望

 

さて、これに答えるためには、「風」が発生したことによって起きた現象を全て説明できるような概念を消去法で選びます。

1の夢は菜穂子との出会いや、2回目の出会いを説明できない。よって×。

2の出会いは最後に菜穂子が消えてしまう場面でも風が吹いていることから全てを満たせない。よって×。

3の希望は全てを満たすことができる。

カプローニとの邂逅は二郎に希望を与えたし、機関車の中での菜穂子とそれに続く2回目の出会いは二郎に希望を与えた、テストの時に吹いた風は二郎を通り過ぎていったので、これは希望が消えてしまう比喩と読み取れる。最後の菜穂子が消えてしまう場面では消えてしまったけれども打ちひしがれていた二郎に「生きる」と言う希望を与えた。

「風」は希望であると読み解きます。

 

他にも本庄やカプローニが「風」という言葉を用いていますが、これを「希望」と置き換えても意味は通ります。「風」が吹いた時の状況について言い表すのに、全ての要件を満たした最も適切な言葉は「希望」です。

夢の在り方と二郎を変えたのは何か

最初は純粋に「美しい飛行機」を作りたかったのに、戦闘機、菜穂子の死期を早める存在、多くの人を死に追いやってしまうような物を作ってしまった。そのように仕向けたのは何か?

これは「現実」です。当時の日本の時代背景、開発責任者としての立場、軍事用として飛行機を作らざるを得ない会社の事情、そういったものが「美しい飛行機を作りたい」二郎の夢を違うものに変えました。それらを適切に表す言葉は「現実」です。

したがって、夢の在り方を変えたのは「現実」と考えます。

「風立ちぬ」の主題

物語の構造を明らかにし、「風」の意味や夢の在り方を変えた存在を明らかにしました。すると主題が明確になります。

それは、「人の純粋な夢は希望によって育まれ、現実によって捻じ曲げられる」です。

最後の希望

菜穂子は「生きて」と言った

夢の中の菜穂子は二郎の創造物であり、「生きて」という言葉に二郎の身勝手さが現れていると言いました。

「生きて」と言った後、菜穂子は「風」とともに消えます。すなわち希望とともに二郎のもとを去るのです。二郎は「ごめんなさい」ではなく「ありがとう」と言いました。

自分の夢の帰結に失望した二郎が、想像の産物であれ、最愛の女性から「生きて」と言われたことで許され、最後に救われるのです。

「ごめんなさい」では後悔になってしまいます。「ありがとう」と言うことで最後に二郎に救いを与えているのです。

物語を貫いていた二郎の夢は現実によって捻じ曲げられますが、最後に二郎は「ありがとう」と言い、「風が吹いたこと」により希望を得て、生きようと決意するのです。

ここまでが読解、ここからは解釈

ここからは読解ではありませんので、読まなくても結構です。

この物語は宮崎駿氏が自分自身を描いていると言われていたりします。「登場人物は著者を反映している」というのは私の読解ポリシーからは反します。

 

ですが、ポリシーに反して宮崎駿氏が自らをこの作品に重ね合わせていると考えますと、こんなメッセージが浮かび上がります。

「絵を描くのが好きでここまでやってきたが商業主義の現実にまみれてしまった。だが、それでも希望を捨ててはいない」

 

これを最後の作品にすると言っていますが、希望を捨てていない宮崎駿氏。期待していますよ。

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