中学受験の国語で満点をとるロジックの実践的解説ードラえもん のび太の南極カチコチ大冒険

中学受験における国語の点数が伸びない理由
国語のテストでいつもぱっとしない点数をとってくる。
そして家でそれなりに時間も使って問題演習しているのに伸びない。
そもそもこの勉強法でいいのだろうか?
という児童は恐らく正しい学習方法を理解していないからそうなっています。正しい学習方法とは身に着けるべき能力を正しく把握することから始まります。
そしてその能力を鍛えるための適切な勉強方法を選択し、勉強する、そうすれば必ず成績は上がります。
それが原理原則です。
国語において身に着けるべき能力とはおおざっぱに分けて、「読む技術」と「解く技術」です。中でも効果的に学習できていないのが読解力であり、読解力の基礎となる「読む技術」の習得です。
もちろん、「読む技術」だけでなく、「解く技術」も必要ですが、「読む技術」なくして解くことはできません。「読む技術」の学習がおろそかになる理由は「読む技術」を多くの大人が体系的に教えてくれないことにあります。
国語の勉強が「問題を解くこと」になってしまい、学習の目的である「読む技術」の習得と「解く技術」のブラッシュアップに結びつかないのはそれが理由です。
というわけで今日も読解力を鍛えていきましょう。「読む技術」を解説していきます。
ドラえもん のび太の南極カチコチ大冒険
あらすじ
導入部:10万年前の南極
十万年前の南極で謎の少女とおじいさんが遺跡らしき建物の中で金色に光り輝く剣を引き抜き、金色のリングを手に入れます。
ところがそのリングを手に入れたとたん、謎の怪物が現れ謎の少女が手にしたリングは水の中に落ちてしまいます。
10万年後
ところ変わってここは日本。うだるような暑さの中、のび太とドラえもんは南極から流れ出した氷山に関する新聞記事を発見します。日本の暑さを逃れるため、二人は氷山に行くことにします。
氷山に辿り着いたのび太とドラえもんは秘密道具を使って氷山を遊園地に作り変えます。
友達の静香ちゃん、ジャイアン、スネ夫も遊園地に招いて仲良く5人で遊びます。
そうするうちにのび太が氷山の奥で金色に光るリングを発見します。リングを取り出すと、その瞬間氷山は崩壊します。
氷山の崩壊によって遊園地も崩壊してしまい、のび太たち一行はどこでもドアで日本に戻ります。
ドラえもんは拾ってきたリングが10万年前のものであることと推測し、そんな昔に精巧なリングを作れる人がいないばかりか南極大陸には人はいなかったと言い、世紀の大発見だ、とのび太たちをあおります。
のび太たちはこのリングの謎を探るため10万年前の南極に行くことを決意します。
南極大陸にどこでもドアで移動したのち、怪しげな場所を発見します。氷を掘削する乗り物に乗って氷の中深くまで潜ったのび太たちは遺跡を発見します。
そこには象みたいな謎の生き物とドラえもんのレプリカを発見します。ドラえもんのレプリカは一行に襲い掛かりますがこれを何とか撃退します。
10万年前に何があったのかを探るためドラえもんたち一行はタイムベルトを使って10万年前にタイムスリップします。
10万年前の南極でカーラという少女(導入部で出てきた謎の少女)と出会います。のび太が発見したリングを彼女に見せると、彼女は強く反応します。そこへタコのお化けが襲ってきますが、ジャイアンの歌唱により撃退します。
ところが、遺跡に巣くっているコウモリにリングが奪われてしまいます。そうこうするうちに南極が夜を迎え、急激に気温が下がってしまうためいったんカーラのベースキャンプまで戻ることになります。
ベースキャンプでカーラとおじいさんが調査を行っている理由は、彼女たちの故郷はヒョウガヒョウガ星という惑星で、ブリザーガというロボットにより惑星が凍り付いたので、それを解除する方法を探っていると聞かされます。
そのための重要な手がかりがリングです。
コウモリに盗まれたリングを取り返すため遺跡を探検することにします。
遺跡の中の仕掛けやドラえもんのレプリカに邪魔されながら、何とかリングを発見します。ところが、遺跡の中で停止していたブリザーガが復活し、ドラえもんたちに襲い掛かってきます。
一行はブリザーガの攻撃から逃れて10万年後に移動しますが、ドラえもんは10万年前の世界に取り残されてしまいます。
自分を助けてもらうために一計を案じたドラえもんの意図に気づいたのび太たちは再び10万年前の世界に戻り、ブリザーガを停止させます。
ブリザーガを停止させたことと引き換えにリングを失ってしまいます。ところが、ジャイアンとスネ夫はコウモリの巣からリングの欠片を拾ってきてそれをカーラに渡します。
これがあればヒョウガヒョウガ星を救えるかもしれない。カーラとおじいさんは故郷のヒョウガヒョウガ星に戻ることにし、ドラえもん達も現代に戻ることにします。
10万年と1週間後、のび太は天体望遠鏡でヒョウガヒョウガ星を観察します。すると、氷が解け、元の緑を取り戻すヒョウガヒョウガ星が見えました。
めでたしめでたし。
目的の変化に着目する
この物語は一直線にエンディングまで進んでいるように見えますが、都度都度で目的が変化していることに気づきます。
目的が変わることによって行動が変化しますから、目的を捉えることが物語の構造変化をもたらす転換点を見つける大きなヒントになります。
第1の目的
暑い日本を逃れる。
これはドラえもんが氷河に関する新聞記事を発見したのをきっかけとして南極から流れ出した氷河に行くという行動につながります。
したがって、第1の転換点は「新聞記事を発見する」。
第2の目的
氷河で遊んでいたのび太たちですが、ひょんなことからのび太がリングを発見します。
リングを発見したことにより、10万年前の南極大陸の謎を解くのが目的になり、南極大陸に行くという行動に変化します。
したがって第2の転換点は「リングを発見する」。
第3の目的
10万年前の南極大陸でカーラと出会い、ヒョウガヒョウガ星のことを聞いたことにより、ヒョウガヒョウガ星を救うことが目的となります。コウモリに奪われたリングを取り戻す、という行動に変化し、遺跡を探索することにします。
したがって第3の転換点は「カーラと出会う」。
第4の目的
リングを取り戻した一行に襲い掛かってくるブリザーガ。ドラえもんは10万年前に置き去りになり、のび太、静香ちゃん、ジャイアン、スネ夫はドラえもんを助ける方法を思案します。
そしてドラえもんが残したヒントをもとに10万年前にもう一度行くことにします。
ここでの目的はドラえもんを助けることです。転換点となったのは「ドラえもんが手を離した」です。
第5の目的
ブリザーガを撃退したドラえもんたち一行は、リングが使い物にならなくなってしまったことに気づき落胆しますが、ジャイアンとスネ夫がコウモリの巣から見つけてきた別のリングの破片をカーラ達に手渡します。
そしてカーラ達はそれを利用してヒョウガヒョウガ星を復活させます。
目的はカーラ達にヒョウガヒョウガ星の復活をさせることであり、実際にヒョウガヒョウガ星を復活させました。
転換点となったのは「カーラにリングの破片を渡した」です。
ドラえもん のび太の南極カチコチ大冒険を整理する
転換点
- 新聞記事を発見する
- リングを発見する
- カーラと出会う
- ドラえもんが手を離した
- カーラにリングの破片を渡した
転換点をもたらした出来事
- 日本の夏がひどく暑かった
- のび太が氷山の奥底に入り込んだ
- 10万年前の南極に行った
- ブリザーガの攻撃を受けた
- コウモリの巣を探索した
起点→行動→変化
- ひどく暑い夏に嫌気がさしたドラえもんとのび太は氷山の記事を発見し避暑のためそこを訪れることにする
- 氷山の奥底に入り込みリングを発見したことをきっかけにして10万年前の南極に行くことを決意する
- 10万年前の南極でドラえもんたちはカーラと出会い、ヒョウガヒョウガ星を救うため奪われたリングを奪還しようとする
- ブリザーガの攻撃を受け、10万年後にタイムスリップしようとしたがドラえもんの手を離してしまい、10万年前に取り残されたドラえもんを助けに行くことを決意する
- コウモリの巣を探索したスネ夫とジャイアンがリングの破片を見つけカーラに手渡し、その破片からヒョウガヒョウガ星をよみがえらせる
構造
- プロローグ
- 暑い夏に嫌気がさすドラえもんとのび太(物語のきっかけ)
- 氷山で避暑を兼ねて遊園地で遊ぶ(リングが物語のキーアイテム)
- 10万年前の南極に向かう(カーラと出会う必然性)
ここまでの展開は物語に決定的な目的を与えるための存在、つまりカーラと出会うまでの導入部です。ここまでが物語の前半部です。
- リングを奪還する冒険に出る(目的のための最重要手段であるリングの入手)
- ブリザーガの攻撃により取り残されたドラえもんを助ける(物語の本筋とは関係がない)
- コウモリの巣にあったリングの破片をもとにヒョウガヒョウガ星を救う
これが物語の後半部です。リングがキーアイテムとなって目的が変化しています。そのリングはコウモリに奪われてしまったので、これを奪還してヒョウガヒョウガ星を救うのが後半の目的となっています。
ドラえもん のび太の南極カチコチ大冒険の主題はどこに?
何らかの出来事が発生することにより目的が都度変化し、最終的にはヒョウガヒョウガ星を救うことが最大の目的となりますが、制作者が伝えたい主題は何なのでしょう?
前半部は、ちょっとした発見により探求心が刺激され、「知る」ことを目的にした過程が描かれています。後半ではカーラを救うとかドラえもんを助けるといったように、目的が「人を救う」ことに変わっています。
前半部と後半部で物語の色合いが変化しているのです。前半と後半の境目はカーラと出会ったことです。
この前半部と後半部を合体させたものが主題、つまり制作者が伝えたいことです。
それは、
好奇心は他人を救う
です。
ドラえもんの大長編映画全てに共通するテーマがここにも存在しています。ドラえもんの映画は内容は違えど、必ず好奇心が他人を救っているのです。
つまり、ドラえもんの一連の大長編映画では、子供たちに対して好奇心を持って生きようそしてそれが人を救うのだということを繰り返し繰り返し言っているのです。
周りの人たちに対しても、周囲で起きる出来事に対しても無関心になってはいけない、とドラえもんの制作者はずーっと伝え続けているのです。
ドラえもんの映画を読み解くカギはこれです。きっと来年の作品もこの主題をブラさないことと思います。
読解のテクニック
ここで紹介した読解のテクニックは「目的の変化に着目する」でした。
そして「目的の変化」に着目したことにより、転換点を容易にあぶりだすことができました。
また、転換点の前後の出来事から、構造が明らかになりました。
構造が明らかになったことで前半部と後半部で目的の方向性が変化したことに気づけました。
その結果物語の主題を把握できました。
「読む技術」というのは丹念な構造把握にこそあります。
このようにして、構造の把握をすることで主題をしっかりと捉えることができました。
物語全体は主題によって貫かれています。
「ドラえもん のび太の南極カチコチ大冒険」は、知ろうとする好奇心が人との出会いを生み、出会った人たちを助ける行動を主人公ののび太が起こしています。
偽物のドラえもんを見破ったのも
地球に破滅をもたらすかもしれないカーラの目的を許容したのも
身を顧みずドラえもんを救うために10万年前に逆戻りしたのも
全て他者や事物に対する優しさです。
逆に他者や事物を排除しようとする存在はドラえもんの映画においては必ず敗れます。
ドラえもん のび太の海底鬼岩城 ではどうでしたか?
海への好奇心がきっかけになってポセイドンの世界を破滅させようとする野望を打ち砕きましたよね。
その他の作品も必ずこの構造となっています。
ここまで徹底して主題が一貫しているのは作者が好奇心を持つことが他人を思いやることにつながると信じているからです。
逆を言うと無関心は世界を滅ぼすと言っているのです。
読む技術の根幹
構造を把握することが読む技術の根幹です。
構造を把握するために転換点を見つけ出すのはテクニックです。
転換点を見つけ出すテクニックとして今回は目的に着目しました。
その他にもいろいろなパターンがありますので今後覚えていって欲しいと思います。
これ試験にでますからね。
あわせて読みたい
最新のホカホカ記事
最新のホカホカ記事の一覧はこちらから書いている人の紹介
星一徹のプロフィールはこちらから- 前の記事
中学受験の国語で満点をとる-「読む技術」により読解を行う 2018.07.22
- 次の記事
中学受験の国語で満点をとるロジックの実践的解説(論説文編)ー朝日新聞の社説を読む 2018.07.25