童謡「ふるさと」読解・解説ー中学受験国語で満点をとる読解ロジック
この記事を読むと身につく読解能力
- 書かれていることから状況や背景を推定する能力
- 書かれていることから導き出される選択肢を消去法によって選択する能力
この記事を読む時に注目してほしいポイントは、どのように状況や背景を推定しているのかと、書かれていることからは2つ以上の可能性があり、かつ断定できない状況をどのように推定しているのかを追体験して頂くことと考えております。
物語を読むときに良く「登場人物の気持ちを考えなさい」と言われますが、「読む技術」なくして導き出す「登場人物の気持ち」は単なる勘です。国語は博打じゃありません。文章に書いてあることだけを手がかりにして必ず論理的に正解を導き出せる科目です。
童謡「ふるさと」の読解・解説
童謡「ふるさと」の歌詞
兎追いしかの山 小鮒釣りしかの川
夢は今もめぐりて 忘れがたき故郷如何に在ます父母 恙なしや 友がき
雨に風につけても 思い出ずる故郷志をはたして いつの日にか帰らん
山は青き故郷 水は清き故郷引用元 ふるさと 作詞:高野辰之
第一段落の読解
兎追いしかの山 小鮒釣りしかの川
夢は今もめぐりて 忘れがたき故郷
「兎追いしかの山 小鮒釣りしかの川」の「し」は過去において完了したということを表します。
したがって、「兎を追っていたあの山」「小鮒を釣っていたあの川」と読解します。
単に遊んでいただけなのか、あるいは食べるために行なっていた行動なのかは歌詞からは判断できませんので、「遊んでいた」とか「食べるため」という言葉をつけてしまうと言い過ぎです。
2行目の「夢」に注目します。「夢」には2つの意味があります。一つは夜見る夢、もう一つは実現したいことです。
ここでいう「夢」を2つのうちのいずれかと判断することで歌詞の意味が変わってきます。
まずは「夜見る夢」だった場合はこのように読解できます。
「昔過ごした故郷の夢を今でも見て 故郷のことを忘れられないのです」
「夢」を実現したいことと捉えるとこのように読解できます。
「故郷を出た今でも自分の夢を追いかけています それでも故郷のことが忘れられないのです」
「巡りて」はぐるぐる回るという意味ですから、夢は完了していないのが推測でき、したがって「追いかけている」と読解しています。
また、「故郷を出た今でも」と読解した理由は歌詞の後半の「いつの日にか帰らん」という部分より、この歌の主体が故郷とは違う場所にいると推測でき、したがって故郷を出たと判断できるからです。
「夢」の意味についてどちらが正しいかが第一段落では判断できません。第二段落にうつります。
第二段落の読解
如何に在ます父母 恙なしや 友がき
雨に風につけても 思い出ずる故郷
「如何に」は相手にどんな状況なのかを聞く疑問の言葉です。続けて「在ます」の「在」は状況や状態を指す言葉です。
したがってそのまま言い換えると、「どのような状態でいますかお父さん、お母さん」となります。
もう少し自然な日本語にして、「お父さん、お母さんお変わりはありませんでしょうか?」と言い換えることができます。
ここから、この歌の主体はお父さん、お母さんにしばらく会っていないと判断できます。
次の「恙なしや友がき」の「恙」は病気を表す言葉、「や」は疑問形、「友がき」は友達ですから、これを繋げて自然な日本語にすると、
「旧友たちよ元気でやっていますか?」
となります。
「雨に風につけても」は「雨が降っても、風が吹いても」であり、それに続けて「思い出ずる故郷」、つまり「思い出す故郷」です。
しかし、ここはやや不自然です。繋げて検証してみましょう。
「雨が降っても、風が吹いても 思い出す故郷」
雨が降ることや風が吹くことと故郷を思い出すのは全く関係がありません。雨や風で故郷を忘れがちになるのが世の中の常なのであれば文意が通りますが、そんな話は聞いたことがありません。
とすると、何らかの隠れた意味があるはずです。
なぜ雨か、なぜ風かを考えます。ポカポカ陽気の気持ちのいい日に故郷を思い出しても良いはずですが、厳しい状況である雨や風によって「も」、故郷を思い出すと歌っている理由は何か。
「雨」や「風」は厳しい状況の隠喩であると捉えるのが自然でしょう。
というわけで、多少意訳しまして第二段落はこのように言い換えます。
「お父さん、お母さんお変わりはありませんでしょうか?旧友たちよ、元気にやっていますでしょうか?私は厳しい状況にさらされた時にも、懐かしい故郷のことを思い出してしまうのです」
上の「懐かしい」は少々意訳を入れてみました。
第三段落の読解
志をはたして いつの日にか帰らん
山は青き故郷 水は清き故郷
「志をはたして」はそのままの意味で、「志を実現して」とでも言い換えておきます。
「いつの日にか帰らん」の「ん」は意志や願望を示す助動詞ですから、「いつかは帰るのだ」と言い換えます。
「山は青き故郷」「水は清き故郷」もそのままです。「青々とした山のそびえ立つ故郷よ」「清らかな水が流れる故郷よ」という感じでしょうか。
ちなみにあえて「山は青き」とか「水は清き」と言っていることから、歌の主体がいる場所は青き山も清い水もない場所、つまりは都会だと推測されます。
これらを繋げます。
「志を実現していつかは故郷に帰るのだ。あの青々とした山のそびえ立つ故郷に、清らかな水が流れる故郷に」
第一段落の「夢」を読解する
第一段落の「夢」が夜見る夢か実現したいことか、第二段落、第三段落を読解しても決定的な判断材料がありませんでした。
こういったときは主題から判断します。
この歌詞は「事あるごとに思い出し帰りたいけれども帰れない故郷を懐かしく思う」気持ちを全体として表現しています。
加えて歌の主体は困難に直面しても(第二段落)、志をはたすまでは帰れない(第三段落)と歌っています。
もし第一段落の「夢」を夜見る夢とすると、単純に「忘れられない」気持ちのみしか表現できません。しかし、実現したいことと捉えると、第二段落、第三段落と同様に「どんなことがあっても故郷を忘れない」という主題を強める意味を持ちます。
したがって、第一段落の「夢」とは実現したいことと捉える方が主題に沿っています。
ですから、第一段落はこのように言い換えます。
「故郷を出た今でも自分の夢を追いかけています それでも故郷のことが忘れられないのです」
歌詞全体の読解
「兎を追っていたあの山、小鮒を釣っていたあの川。故郷を出てから今でも自分の夢を追いかけていますが、それでも故郷のことが忘れられないのです。お父さん、お母さんお変わりはありませんでしょうか?旧友たちよ、元気にやっていますでしょうか?私は厳しい状況にさらされた時にも、懐かしい故郷のことを思い出してしまうのです。志を実現していつかは故郷に帰ります。あの青々とした山のそびえ立つ故郷に、清らかな水が流れる故郷に。」
この人物の状況を推測する
この人物は故郷を出て美しい山や清冽な川のない都会に住んで、自分の夢を叶えようとしています。
厳しい状況にあっても故郷のことを思い出しますが、夢を実現しない限り故郷には戻らないと心に決めています。
故郷のことをここまで思っているのに帰らないと心に決めた歌の主体の覚悟が伝わってきます。歌の主体が夢を実現するまで故郷に帰らないと決めた意志の強さと故郷に帰りたい強い気持ちの矛盾を歌っているとても感慨深い歌詞だと思います。
中学受験の国語ではこう役立てる
さて、ここまでで気づいていると思いますが、私は書いてあることからしか推測、判断をしておりません。中学受験の国語を解く上でも書いてあること以外は手がかりにしてはいけません。
読解せずに想像したり、登場人物の気持ちになりきるのは絶対にしてはいけないことです。
ましてや作者の生い立ちから文章を読み解くなど中学受験の国語においては愚の骨頂。そんなのは文学の研究者にでも任せておけばよろしい。
また、親御様においては、書いてあることから読み解くとはどういうことか、どういった作業をしているのかを感覚として把握して欲しいと思います。自ら読み解く能力を身に付ける必要はありません。
中学受験の国語の問題では書いてあることからしか解答を導いてはいけないのと、書いてあることから読み解くというのはどういうことかを分かっておいて頂ければ十分です。
お子様から質問された時には「文章には何が書いてあるかな」「これは文章に書いてあることかな」「文章から推測できるのは何かな」、と問いで答えてあげてください。
そしてお子様に考えさせてください。
必要なのは答えではないです。答えを導くために自ら考える能力です。
同じく童謡「赤とんぼ」の読解を読んでいただくとさらに理解が深まると思います。
それからアナと雪の女王の読解でも歌詞を読み解いています。
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