【中学受験】楽しい理科第5回 一問一答と解説 生物編①植物「花と受粉」
理科は苦手ですか?
苦手ならまずは暗記をした方がいいです。むしろ、試験勉強なんてものは理科に限らず暗記がすべてと言っても過言ではございません。
ところで暗記とは何でしょう?答えを言ってしまいますと、インプットした物事を頭からスムーズに取り出せるようにする作業のことを暗記と言います。
で、ここで問題になるのは「スムーズに取り出す」ということでございます。いくら頭に入れてもスムーズに取り出せないと暗記したことにはなりません。
例えばハサミという道具。
ハサミを見たことも聞いたこともないアンドロメダ星人に「これはハサミと言うんだ!100回唱えろ!」と、地球に少し慣れてきたトミー・リー・ジョーンズが命令したとします。
アンドロメダ星人は必死に「ハサミハサミ・・・」と唱えます。この時点で頭の中にはインプットされます。しかし、何のための道具なのかさっぱり分からないので、少し経つと名称を呼び出せず「ササミ!」と自信を持って答えてしまうに違いありません。
ところが我々地球人はハサミを見たら、ハサミだと即座に答えられます。ササミだとは答えません。ものを切るための物体であり、使い方も分かります。したがって、名称も容易に答えられます。
ササミは焼いて柚子コショウをつけると美味しいですが、ものを切ることはできません。だからハサミとササミは言葉だけでなく、概念的にも違うものだということが分かります。名称とその特徴、機能が頭の中で結びついているからそうそう間違えることはありません。
関連性と差異により私たちは物の名前や概念を頭から呼び出したり、他のものとの違いを理解できます。
理科と関係ない話が続きました。
一問一答に加えて解説を入れているのは覚える対象のことをよく知って頂き、頭の中で関連づけて欲しいからです。解説の内容は中学受験では直接的に出てこないことも入れています。が、言葉と概念を関連付けて知識を頭から呼び出しやすくなれば、と思い書いております。
なお、一問一答および解説の作成には自分の考えを一切入れず、文献や論文を参考にして作成しております。
一問一答については検証のため「四谷大塚 予習シリーズ理科」の内容と照らし合わせて過不足がないかチェックしております。
ちなみに植物編の一問一答と解説作成で大変お世話になったのが「日本植物生理学会 みんなのひろば」です。本を読み、疑問に思ったこと、裏をとりたかったことはここでほぼ全て解決しました。何しろ回答者は全員、植物の研究者で大学の現役教授、名誉教授の方々です。
その方々が素人にも分かりやすく、丁寧に質問に答えてくれています。こんなに素晴らしい内容が無料で閲覧できて、しかも質問したら答えてくれる。本当に良い時代です。
ではいきましょう。
参考文献)
「しくみと原理で解き明かす 植物生理学」佐藤直樹/著 裳華房
「新しい植物分類学 1」日本植物分類学会/監修 講談社
「新しい植物分類学 2」日本植物分類学会/監修 講談社
「漱石の白くない白百合」塚谷裕一 文藝春秋
「予習シリーズ理科」四谷大塚出版
一問一答プリント
花ってなんだ?
花は、いくつかの要素からなっていると教わったはずだ。雌しべ、雄しべ、花弁、がく。これら4つが備わっている花のことを完全花という。そうでない花は不完全花。それくらいは教えてくれるはずだ。あるいは教わったかもしれない。
ちなみにそれぞれの定義は教わったかな?雌しべ、雄しべは教わったよね。雌しべは雄しべから放出された花粉がくっついて受粉するところ。雄しべは花粉を放出するところ。明快だ。
では、花弁とがくはどうだろう?違いを答えられるだろうか?
下の写真を見て欲しい。アジサイの花だ。どれが花弁でどれががくか答えられるだろうか?
紫がかったピンク色の大きな部分が花弁だと思うかもしれない。だが、それは違う。そこはがくだ。
正解はこう。
君はもしかしたら花弁、つまり花びらを「なんかひらひらしててきれいな色をしたところ」くらいの認識でいたかもしれない。大抵の花はその認識で大丈夫だけども、もっと正確に理解しておこう。
雄しべのすぐ外側にあるのが花弁、花弁のすぐ外側にあるのががく、というところだ。アジサイの花は雄しべのすぐ外側にちっこい豆粒みたいなヒラヒラがある。だからこれを花弁と言う。そして、花弁を囲むように外側には大きなヒラヒラがある。だからこれをがくと言う。
また、がくは開花前、つまりつぼみの時に花の内部を守るため、内部を包み込んでいる。一番外側にある。つまり、花が開くと自然と一番外側にくるというわけだ。
だから、花弁とがくの違いは、位置関係で覚えておくと間違えがない。
ヒラヒラしてきれいなのが花弁、つまり花びらだと理解していると時々だまされる。
花弁の役割
花弁というのは主に被子植物に存在する器官だ。被子植物の多くは虫に花粉を運んでもらって受粉する。だから、虫に寄ってきてもらわないといけないわけだ。
虫は花弁という器官にフラフラと寄ってくる性質を持っていた。だから、無事に受粉し後世に子孫を残した被子植物の多くは花弁を持っている。
花弁の役割は虫などの動物を引き寄せることと習うかもしれない。が、花弁にフラフラと寄ってくる性質を持った虫が受粉を助け、花弁が存在する植物が繁栄したと考える方が自然だ。
最初から虫をたぶらかすつもりで花弁を作ったとしたらとんだ策略家だがおそらくそうではない。
いずれにせよ中学受験レベルでは花弁の役割は虫などの動物を引き寄せることと覚えておこう。
ちなみに裸子植物の多くには花弁がない。風に運ばれて受粉するため、花弁なんてものは邪魔なだけだからだ。
被子植物と裸子植物
もう習った人はこう教わったはずだ。
「被子植物は胚珠(はいしゅ)が子房に包まれている植物」
「裸子植物は胚珠(はいしゅ)がむき出しの植物」
おおかた、上の理解で合っているが裸子植物の胚珠(はいしゅ)は完全なむき出しではない。りん片に覆われているからだ。だから、正しく覚えるなら「胚珠(はいしゅ)が子房等の構造体に包まれていない植物が裸子植物」と覚えておいた方がいい。
また、裸子植物には花弁もない。マツやスギ、ソテツには花弁がない。なぜなら風で花粉を運ぶので(虫などの動物ではなく)花弁が存在する必要がないからだ。
裸子植物と被子植物の違いはわかったね。
では、どちらの方が優れているのだろうか?結論から言ってしまうとどちらが優れているとか優れていないとかいうのはとても言いにくい。
ただし、進化の歴史上、裸子植物の方が古くから存在し、被子植物は裸子植物が進化したものだ。そして裸子植物の多くは花粉を風で飛ばして受粉させるが、被子植物の多くは虫や鳥などが花粉を運んで受粉する。風で飛ばすよりも虫や鳥に運んでもらう方が確実だ。
被子植物が登場すると裸子植物を植物界の中心から追いやって、めちゃくちゃ増えた。
被子植物は裸子植物の進化形だ。ベイブレードで言うと、ゴッドレイヤーと超Zレイヤーの関係だ。
これだけ聞くと被子植物の方が優れているように思えるよね。ただ、ロシアのツンドラなど寒い地域では被子植物よりも裸子植物の方が多い。裸子植物の方が寒い環境に適応できるからだ。
では優れているのはどっちだ???答えはどちらでもない。ただ、環境に適応したものが生き残り繁栄しただけだ。
裸子植物だって初めから虫とか鳥に花粉を運んでもらって受粉すればいいじゃん、と思わなかったかい?そうすればもっと繁栄できたのに、と。ところが裸子植物が地上に現れた時には虫などの動物はごく少数しか存在していなかった。4億年以上も前の話だ。裸子植物は風で花粉を運ぶしかなかった。
裸子植物はこれから花弁を持つようになる進化の過程にあると言う人もいる。真相は随分先の話になるだろう。
自家受粉と他家受粉
自家受粉とは同じ個体の中で受粉することだ。他家受粉は他の個体と受粉すること。
違いはわかったね。
では、どちらの方が優れているのだろうか?
生物は進化の過程で、様々な環境条件に適応できるよう多様性を獲得してきた。そんな風に習ったりはしなかったかい?だから、他家受粉の方が優れている。別の個体と受粉する方が多様性を得られるから良い、と。
だが、他家受粉のデメリットは不確実であることだ。距離的に近い自家受粉(同じ個体の中で受粉)の方が受粉の確実性は高い。同じ花の中に雌しべと雄しべが存在して、すぐにくっついて受粉できる花の方が子孫を残すには良いに決まっている。
これについて東京大学大学院理学系研究科の塚谷裕一教授はこう言っている。
しばしば通俗書では、有性生殖は環境の変化に対応する意味がある、とされていますが、これは大部分間違いです。
引用元:日本植物生理学会 みんなのひろばより
有性生殖とは他家受粉のことだ。環境の変化に対応できないとしたら、そもそも他家受粉などする意味があるのだろうか?
塚谷裕一教授は他家受粉のメリットは「病原体やウイルスの変化への対応」といった直近で頻繁に起きる変化への対応のためであり、生物本来の目的である「子孫を残す」という意味では確実性の高い自家受粉の方が良いと言っている。
しかも自家受粉であれば現在の親が持っている性質をそのまま受け継ぐため、現在の環境に適応している子供が生まれる可能性が高い、とも言っている。
ただし自家受粉の場合は親の劣った性質同士がくっついて、劣った性質を持った子供が生まれてくる。他家受粉であればそれは避けられたかもしれないのに。
つまり、自家受粉と他家受粉、どちらもメリットはあるし、デメリットもあるということだ。
アサガオという植物がいる。こいつは自家受粉もできるし、他家受粉もできる。虫によって花粉が他の個体に運ばれて受粉すれば他家受粉。雌しべに雄しべがくっつけば自家受粉したりもする。
これなら他家受粉のメリットも自家受粉のメリットも両方とも受けられる。
つまりは生き残っていく植物というのは子孫を残すことを一番大事にしながらも、直近の脅威にも対応できるような植物である、そういうことが言えるんじゃないかな。
合弁花と離弁花
花弁がくっついた花を合弁花と呼び、花弁が分かれている花を離弁花と呼ぶ。
ではなぜ、合弁花と離弁花が存在するのか、これもよく分かっていない。
分からないことだらけでイライラしてきたかな?そう、自然は分からないことだらけだ。でも一つだけ言えることがある。合弁花が多い場所は合弁花に適した環境で、離弁花が多い場所は離弁花に適した環境だということだ。
合弁花のメリットは虫が花に潜り込んだ時に花粉が体にくっつきやすいこと。合弁花の内部は狭いから、中に入ってくるといやがおうでも体に花粉がついちゃうんだね。
デメリットは風で運ばれにくいこと。
離弁花のメリットは風で運ばれやすいこと。
デメリットは虫の体に花粉がくっつきにくいこと。
それぞれメリット、デメリットがある。それは環境による。絶対的なメリット、デメリットは存在しない。
分からないことだらけ
日本植物生理学会の「みんなのひろば」には色々な人から、色々な質問が寄せられている。
その中には学校の先生もいる。
学校の先生が「生徒には〜と教えているけれども自信がないので私の考えが正しいか教えてください」と言っているんだ。僕はこういった先生をとても立派だと思う。
分からないことを分からないと言い、そして正しいことを教えるために教えを乞うなんて勇気と情熱がなければできない。
先生だって間違える。
当然だ。植物の専門家じゃないんだから。それどころか専門家だってなんだって、人間なら誰だって間違える。間違えることは仕方ない。間違えに気づいて正せばいい。
逆に、「マツの花の特徴を書きなさい」とテストで問われ、「花弁がないこと」と書いたら×をもらったと言って憤って質問してきた中学生もいた。正解は「胚珠がむき出しである」とのこと。
そして、先生から「マツにも花弁があるものもある」と言われたという。
ところが、専門家の先生は「マツには花弁はない」「そもそもマツの花は『花」とは言わない」「だいたい質問がざっくりしすぎていてどう答えれば良いのか分からない」とけちょんけちょんに言っている。
この中学校の先生は「マツにも花弁があるものもある」なんて言わずに「確かにそれも正しい。設問が曖昧だった。もっと勉強するよ」と言っていれば良かったと僕は思う。
学校の先生は絶対的存在じゃない。分からないものは分からない。それでいいじゃない。一緒に考えて、間違えたら謝って、生徒と一緒に成長したらいい。
我々、親だって絶対的に正しいふりをする先生なんてちっとも望んでいない。
塾の先生だって同じだよ。言っていることを鵜呑みにしちゃいけない。必ず裏をとって、正しいかどうか検証して、自分の頭で判断して欲しいんだ。
そういう態度はきっと先生を自然体にするはずだし、そうやって自然体の関係が築ける方が『師弟関係』なんていうものよりずっといいと思うんだ。
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