【中学受験】『うしろめたさの人類学』で国語力を伸ばす読書のヒントと具体的な方法
3月ももう7日でございます。雛人形も片付けてないよ、という声もちらほら聞こえてまいりますが皆様におかれましてはいかがお過ごしでしょうか?
さて、2月の終わり頃から3月の中旬くらいにかけまして各塾では入試報告会やら分析会やらが各地で開かれております。
タダで情報ゲットできるなら行っておいて損はないとばかりに銀座ブロッサムとかに馳せ参じた方も多いのではないでしょうか?
このような報告会では2019年の入試を振り返って各校で出題された本の紹介なんぞがされたりいたします。
「『うしろめたさの人類学』絶対読んどけ!YO!check it out!」
なんてね。
2019年の問題を見てはいないので定かではありませんが、どうやら開成やら豊島岡といった難関校で『うしろめたさの人類学』が出題されたようです。そして説明文読解のために読めよ、そう頭の良さそうな先生が仰っております。
「おー、こりゃ血相変えて親御様がたAMAZONでポチってるに違いねえ!」
などと悪い顔をしながらAMAZONを見てみると、
在庫切れの文字が踊り、さらに一緒に購入されている本は『リマ・トゥジュ・リマ・トゥジュ・トゥジュ』
報告会で紹介された本を速攻でポチる圧。親指の魔術師。
どんだけー!とIKKOさんもいつもより一層大きく鼻の穴を膨らませている平成最後の初春。
中学受験ペアレンツの情報力とポチる力を私はなめていましたよ。こうして季節は巡っていくのですね。
そこかしこから春の足音と読めぇ!という愛に溢れたお声が聞こえてくるようであります。
ところで私は何度か書いておりますが、読書量と国語の成績は比例しない、あるいはただの読書は非効率的だと。
ましてや今まで大した読書をしてこなかった子に『うしろめたさの人類学』を読ませて成績がアップするなんてこれっぽっちも思っておりません。
なぜなら本を読むには技術が必要でして、それを教わっていない、もしくは身につけていないのに読んでも意味がないと考えるからです。
本を読むのに技術が必要?
こんなことを言うと割とビックリされてしまい、逆に私はビックリしてしまうのですがあまりご存知ない方が多い。
良い書き手ってのはよく聞くけどさぁ、良い読み手なんて聞いたこともねぇよ、と。
てなわけで今回は各校の入試問題で出題された『うしろめたさの人類学』をポチって目の前にし、途方に暮れている親御様に、読み方のヒントをお伝えすべく書き綴っていきます。
書評なんか書いても受験生やその親御様には役に立たないでしょうから。
うしろめたさの人類学は論説文(説明文)である
前提として、物語の読み方と論説文の読み方は違う、とご理解頂いておいた方がいいですね。
つまり、読むための技術が違うわけです。
『うしろめたさの人類学』は論説文(説明文)。つまり評論系の本ならではの読み方を実践する必要がございます。
いずれにせよ、小説とは読み方が違うということをまずは頭に入れておいてください。
評論系の本を読むコツはイシューを押さえ続けること
イシューを押さえるとか格好良く言ってみました。
で、イシューってなんなの?まぁ、そうなるでしょうね。
ロジカルシンキング系の本にもイシューについて分かったような分からないような素晴らしく男らしいお言葉が並んでおりますが、平たく言いますと、
問いです。
評論系の本を読むには「問い」を設定することが大事なんです。これ、読む技術。
ところで本を読む方法を習った方ってどれだけいらっしゃるんでしょうか?
あんまりいないんじゃないでしょうかね。
なぜだか知りませんが頭の良い先生がたは本を読む方法をもったいぶって教えてくれないことが多いですよね。
評論系の本を読むには、イシューを押さえ続けながら読みなさい、なんて学校で習った人どれだけいます?あんまりいないでしょ?
噛み砕いて説明していきましょう。
通常、評論系の本を読む目的は、知りたいことを知るためです。「わたし活字中毒でサブカルなんですぅ」という高円寺あたりによくいそうな方は除きますよ。ってか最近いるのかしら?昔はよくいましたけど。
知りたいことを知るためには、何について知りたいのかという問いが必要です。
これをイシューと言っているんですね。
まずは問いを設定せよ。
話は変わりまして皆様、自己啓発本は好きでしょうか?もしかしたら社会人一年目あたりで悩んでいた頃、答えが書いてある気がして読み漁っていた人もいるんじゃないでしょうか。あるいは現在進行形の方も。
読み終わるとなんか元気が出てきますよね。
「よっしゃ!今日からあたし変われる!」
とかね。
ところが3日も経つと何が書いてあったかすら忘れてしまう思うもの。そういう時って具体的な問いも設定できてないですし、当然問いに対する答えも得られていない。だから、元気にはなるけれども問題は解決していない。
サスペンダーでビッチビチ、腕にはロレックスのデイデイトでまっきんきんの部長から「七つの習慣はいいぞ」と言われてフラフラ読むと一時的に元気は出ますが持続性がない。
イシュー、つまり問いのない評論系本の読書は午後3時頃にレッドブルでキメるのと大して変わりがないんですね。
漫然と読んでも元気以外得られるものってあんまりないんです。
だから、はじめに問いを設定して、本に向かって問い続ける、そういった態度が重要なんです。
うしろめたさの人類学におけるイシュー
問い、それがイシューと書きましたね。
ただし問いなら何でもいいってわけじゃあございません。
『うしろめたさの人類学』には日本とエチオピアの違いは書いておりますが、美味しいきんぴらごぼうの作り方は書いておりません。
「おっしゃ!美味しいきんぴらごぼうを作るために『うしろめたさの人類学』を読むぞ!」
と息巻いても残念ながらがっかりしてしまうこと請け合いです。
そこで、本の「はじめに」を読むんです。「はじめに」を読むとおおよそその本に書いてあることが把握できます。
『うしろめたさの人類学』の「はじめに」では変なおっさんのエピソードとかエチオピアの話とか、贈与についての話を通して、結論としてこのようなことが述べられております。
「世界はつなぐ力とつながりを失わせる力でできている」
そして
「いろんな「つながり」を回復する必要がある」
と。
つまり、この本は「つなぐ力」と「つながりを失わせる力」について考え、「つながり」を回復する手段を提案しているものと推察できます。
ってことは、この本を読むにあたっては、最初に
「世界を形作っているつなぐ力とは何か、つながりを失わせる力とは何か、つながりを回復するには何が必要か」
という問いを立てるんです。
そしてこの問いに対する答えを探し続ける。頭の中で答えの論理を組み立てていく。それが読書。本を読む技術の基本中の基本でございます。
問いを設定したら構造を把握する
構造を把握する、なんてまた難しそうなことを言っちゃいました。テヘ。
これも方法があります。どうやって構造を把握するか。
目次を読むんです。
『うしろめたさの人類学』の目次を列挙していきます。
第一章 経済ー「商品」と「贈り物」を分けるもの
第二章 感情ー「なに/だれ」が感じさせているのか?
第三章 関係ー「社会」をつくりだす
第四章 国家ー国境で囲まれた場所と「わたし」の身体
第五章 市場ー自由と独占のはざまで
第六章 援助ー奇妙な贈与とそのねじれ
終章 公平ーすでに手にしているものを道具にして
引用 うしろめたさの人類学/ミシマ社 著:松村圭一郎
目次を読む限りですと『うしろめたさの人類学』では上記の項目を通して、「つなぐ力」と「つながりを失わせる力」について書いていることが予想できます。
次にこれを構造化してみましょう。
ヒントは「はじめに」に書いてあります。
引用します。
最初に、ぼくら一人ひとりがいま生きている現実を構築する作業にどう関与しているのか、その関わり方を探ることから始めよう。そこで手がかりになるのが、人と人とがモノや行為をやり取りする「コミュニケーション」だ。
(中略)
でも、たぶんあまりにいろんなことが絡まりすぎているのだと思う。複雑すぎてなにから手をつけていいのかわからない。モースの言葉を胸に刻んで、まずは、一つひとつ絡まった糸をほどいていこう。
引用 うしろめたさの人類学/ミシマ社 著:松村圭一郎
ここで著者は宣言しています。「コミュニケーションを手がかりにして、一つひとつ絡まった糸をほどいていこう」と。
一つひとつというのは目次で列挙された項目一つずつを指していると考えるのが自然でしょう。
要するに目次で列挙された項目をコミュニケーションという観点で見つめ直し、「つなぐ力とつながりを失わせる力」の正体を暴いていき「つながり」を回復する手段を見出す、これが『うしろめたさの人類学』という本の中で行われている。
と、「はじめに」と目次を読んで察することができますね。
そして、それぞれの項で「つなぐ力」と「つながりを失わせる力」が具体例をもとに論じられており、結論を導いている。
つまり、二項対立と帰納法を用いており、構造全体は多分ピラミッド構造だろうと予想できますね。
構造を図にするとこんな感じ。
中学受験の国語にどう生かすか
さあ、とっても難しい話になってきてしまいました。
ただせっかく買ったからには何とかして役立てたいもの。
ここからは中学受験に役に立つ読み方を方法論とともにご紹介していきます。
読むヒント① 具体から抽象へ、抽象から具体へ
頭の良さそうな先生がたから、「国語は具体から抽象、抽象から具体の流れを読み取るのが大事」とか聞きません?
これ、なにを言っているのかっていうと、現象を法則に変換してその法則を使って具体的現象を捉えようってことです。
例をあげます。
まずは具体から抽象。
「贈り物をしたらママが笑顔になった。お手伝いをしたらパパが笑顔になった。勉強を教えてあげたら妹が笑顔になった。したがって、人はして欲しいことをしてあげると笑顔になる」
そしてこれが抽象から具体。
「花子ちゃんは宿題ができなくて困ってる。花子ちゃんに笑顔になって欲しい。花子ちゃんの宿題を手伝ってあげよう」
『うしろめたさの人類学』ではエチオピアと日本の対比を通して、こうした具体から抽象、抽象から具体がふんだんに盛り込まれています。
是非、なにが具体でなにが抽象かを意識しながら読んでみてください。
読むヒント② 二項対立
この本は「つなぐ力」と「つながりを失わせる力」の対比を通して「つながり」を回復するためには?という全体を貫く問いがありましたよね。押さえ続けなければいけないイシューです。
ですから読みながらしっかり「つなぐ力」と「つながりを失わせる力」という二項対立を捉えましょう。
ピンクと黄色の蛍光ペンで線を引くのも良いかもしれません。
例として本の中の語をランダムにピックアップいたしまして、「つなぐ力」をピンク、「つながりを失わせる力」を黄色で塗りつぶしてみますから参考にしてみてください。
交換、ご祝儀、贈与、対価、労働、マクドナルドのスマイル、共感、愛情、制度、名前、国境、社会主義、消費者、援助、バレンタインデーのチョコレート、老婆の物乞い、システム、コーヒー、パスポート、家族
この本は論説文(説明文)で頻出する二項対立の把握にうってつけです。いっぱい出てきますから。
二項対立をしっかり捉えられるようになりますと、今何について述べられているのかがクリアになり、文章に置いてけぼりを食うことが少なくなります。
ぜひ練習してみてください。
読むヒント③ 章ごとの結論をまとめる
『うしろめたさの人類学』は章ごとに著者の結論がきれいにまとめられてます。それを捉える練習をしてみましょう。
大丈夫、著者の松村圭一郎さんはとても分かりやすく書いてくれてます。間違ってもいいから、自分の言葉でまとめてみましょう。
例をあげます。第三章「関係」の結論はこう。
「関係とは行為の積み重ねによって他者との間に構築されるものである」
はい。こんな感じ。
全部の章の結論を書いていきましょう。
次にやるのは統合です。
読むヒント④ 統合する
章ごとの結論を書けたら、次は上の方で書いたピラミッド構造に結論を当てはめてまとめていきましょう。
そして、そこから導き出される結論を是非考えてみてください。
著者の松村圭一郎さんは全体の結論、つまり「つながりを回復する方法」はうしろめたさであると論じています。
てやんでえ、結論なんて導く必要ないじゃねえかよ!なんてやさぐれないでくださいよ。
自分で考えて結論を導くのが大事なんです。
そして、どうして著者の松村圭一郎さんが「うしろめたさ」という解答を得たのか、それを考えること。
読むヒントの①〜④までしっかり実践したら買った甲斐があるというものです。
『うしろめたさの人類学』を読むということのまとめ
1.まずは「はじめに」を読んでイシューを設定しましょう。問いの設定です。
2.次に目次を読んで全体の構造を把握しておきましょう。
3.具体から抽象、抽象から具体の流れを意識して読んでみましょう。
4.二項対立を把握するため色違いの蛍光ペンで「つなぐ力」と「つながりを失わせる力」を色分けしていきましょう。
5.章ごとの結論を自分の言葉でまとめていきましょう。
6.章ごとの結論を統合して自分なりに全体の結論をまとめてみましょう。
7.著者が提示する全体の結論と自分の出した結論がどう違うのか考えてみましょう。
8.著者がどうしてそのような結論を出したのかを6で作ったピラミッド構造をもとに考えてみましょう。
塾の授業や塾の宿題で大変なのは承知しておりますよ。
ただ、もし買ったのなら気合いを入れて取り組んでみてください。
難しそうに見えますが、頑張ればできるはずです。
こんな面倒臭いことやりたくねぇ!って?
HAHA、発想が逆です。面倒臭いことだからみんなチャレンジしない。みんながやらないことだから差がつく。
だったらやった方がいいでしょ。私、普通のことしか言ってませんよね?
ちょっと高い(税込1836円)ですけど、取り組みやすさという点ではうしろめたさの人類学はオススメです。
こちら↓で『リマ・以下略』の読み方も紹介しております。
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