中学受験の国語で満点をとるロジックの実践的解説(物語編)ードラえもん 台風のフー子

中学受験の国語で満点をとるロジックの実践的解説(物語編)ードラえもん 台風のフー子

あらすじ

静香ちゃんがのび太にペットの小鳥を紹介します。

のび太は静香ちゃんと小鳥の親密な様子を羨ましがります。自分も鳥を飼いたいと考え、家にあった生卵を体温で暖めてヒナを孵そうとします。しかしうとうとして誤って卵を割ってしまいます。

その様子を見たドラえもんは「無精卵からヒナは孵らない」と呆れたようにのび太に言います。

ドラえもんは四次元ポケットから大きな卵を取り出します。ところが、何の卵なのか分かりません。のび太は卵を暖めることにし、ドラえもんはどこかに出かけてしまいます。

ドラえもんがようやく何の卵なのかを思い出し、血相を変えてのび太に卵を暖めるのをやめさせようと部屋に戻ってきた時、卵が孵りヒナが姿を見せます。

そのヒナは台風の赤ちゃんでした。

未来の科学者が人工的に作り出した台風の卵から生まれた台風の赤ちゃんをのび太は「フー子」と名付けます。

のび太はフー子に愛情を注ぎ、献身的に育て、一緒に遊んであげます。

フー子の大好物である熱い空気を食べさせるうちにフー子は大きくなっていきます。大きくなるとフー子が起こす風の力も強くなり、家の中をめちゃくちゃにしてしまいます。

怒ったのび太のママはフー子を捨てるように言います。

が、フー子に愛情を注いでいたのび太はフー子を捨てることができません。一度、フー子と遊びに出かけた際に、のび太は夢中で遊ぶフー子が気づかないうちに置いて帰ろうとします。が、結局置いて帰ることができず家に連れて帰ってきてしまいます。

その日、日本に大型台風がやってきました。雨と風はどんどん強さを増していきます。のび太の家はガタガタ揺れ、屋根の痛んだ箇所が風で吹き飛びそうになります。

のび太のパパとママは屋根を直そうとしますが、あまりの雨と風の強さに思うように作業が進みません。

様子を見ていたフー子は家を飛び出し空の彼方へと消えていきます。

そのうち日本に向かっていた大型台風と日本から発生した小型台風が衝突したニュースがテレビで伝えられます。やがて二つの台風は消滅したことが伝えられました。

のび太はフー子が死んでしまったこと、そして自分たちを守ってくれたことに涙します。

後日、のび太が道路を歩いていると風が巻き起こります。フー子の事を思い出してしまうと寂しげにドラえもんに告げます。

転換点の発見

転換点の発見方法

物語を正確に把握するには変化に着目します。変化は何かしらのきっかけによってもたらされます。このきっかけを転換点と呼びます。

 

中学受験国語の物語文において問われるのは変化をもたらした行動の理由、背景、心情です。

ですからまずは変化をもたらした行動・出来事、すなわち転換点を見つけ出すのが重要になります。

 

転換点は、その前後で登場人物の目的や行動様式が変化するポイントです。したがって、転換点を見つけるため登場人物の目的や行動様式の変化に着目します。

第一の転換点

「のび太が静香ちゃんとペットの様子を羨ましく思った」

これは物語のきっかけですが、それまでの日常が変化したという意味で転換点とします。

のび太はペットを飼っていませんが、静香ちゃんとペットの様子を見て羨ましく思ったのです。そしてペットを飼うため生卵を暖めることにしたのです。

主人公であるのび太の行動がそれまでの日常から変化しています。

第二の転換点

「のび太がドラえもんが出した卵を孵した」

第一の転換点以降では、のび太がペットを入手するまでの行動が描かれています。第二の転換点以降ではのび太がペットを育てる行動が描かれます。

入手と育成では行動様式が異なります。

したがって第二の転換点は「卵を孵した」ことです。

 

「卵を孵した」理由はのび太が静香ちゃんのペットを羨ましく思ったのが起点となっています。第一の転換点と第二の転換点が直接的な関係性を持っています。

第三の転換点

「フー子が家の中をめちゃくちゃにする」

この出来事によってのび太の行動は「育てる」から「捨てようとする」に変化します。第二の転換点以降、愛情を持って育ててきたのび太が「捨てなくてはいけない」という思いに囚われ、途中でやっぱりできないと思い直すものの実際に「捨てる」行動をとります。

「育てる」と「捨てる」とでは大きく行動様式が異なります。

ですから、第三の転換点は「フー子が家の中をめちゃくちゃにする」です。

 

めちゃくちゃにしてしまった背景はフー子が大きく育ちすぎたことであり、大きく育ちすぎたのはのび太が愛情を持って育てたからです。愛情を持って育てたことが、家をめちゃくちゃにし、逆にフー子を捨てざるを得ない状況に陥ってしまったのです。

 

のび太の心情はこうです。

「僕が愛情を持って育てたフー子が家をめちゃくちゃにして、結局捨てなくちゃいけなくなった。僕の愛情が、逆にフー子を窮地に追いやったのだ。僕の行動が招いてしまった責任をフー子に負わせられはしない。でもママに迷惑をかけることもできない。どうしたらいいんだろう?」

 

のび太がもしフー子のことだけを考える人物だったとしたらママに反抗して大げんかするはずです。のび太がもしただの意気地なしだったとしたらフー子を置いて捨てて来るはずです。

ところがのび太は反抗もせず、かといって捨てることもできませんでした。

これはのび太が他者に対して一様に思いやりの心を持った人物だからです。フー子に対してもママに対しても。どちらか一方を取ることができない優しさを持っているのです。

 

だから、のび太はママに反抗することもせず、フー子を捨てることもしない行動、つまり押入れに隠しておくという行動を選択します。

第四の転換点

「日本に大型台風がやって来る」

これにより、パパとママは屋根の修理をする羽目になり、フー子は大型台風と対決するため嵐の中飛び出していきます。

フー子を捨てなければいけないとのび太が苛まれる苦悩の物語から、大型台風でのび太一家が危機に陥る物語に転換します。

第五の転換点

「フー子が大型台風と衝突して消滅する」

家を飛び出したのは第四の転換点の出来事を受けた行動であり、物語を変節させているのはフー子の消滅です。

したがって第五の転換点は「フー子の消滅」です。

 

フー子の消滅をもたらしたのはフー子が家を飛び出した行動であり、その背景はのび太一家の危機を感じ取ったのに由来します。

なぜフー子は消滅する事を選択したのか

物語の構造

  1. 静香ちゃんとペットの様子を見て羨ましい
  2. 自分もペットを飼いたい
  3. 愛おしいフー子との生活
  4. フー子を捨てざるを得ない苦悩
  5. 大型台風が一家に危機をもたらす
  6. フー子がいなくなってしまった寂寥感

このような構造となります。「愛する者がいる幸福」が描かれている前半と、「愛する者を失う悲しみ」が描かれている後半、という大きな2つの構造が浮かび上がります。

この物語は「愛するものがいる幸福、失う悲しさ」を描いています。

これは人間の普遍的な心情です。だからドラえもんの話の中でも屈指の名作と言われているんでしょうね。

フー子の気持ちを考える

さて、この物語でやや唐突に感じられるのが、フー子が大型台風と対決しにいくシーンです。

なぜフー子は大型台風と対決し消滅する事を選んだのでしょうか?

 

フー子はのび太からの愛を一身に受け健やかに育ちます。ところが自分の無邪気な行動がのび太を困らせている事実を薄々感じとります。それでものび太が自分を見捨てずに守ってくれようとするのです。

献身的な愛を注いでくれるのび太が危機に陥りながらも自分を守ってくれる姿を見て、自分も危機に陥ったのび太を守らなくてはいけないと決意します。フー子は大型台風を怖がっていたと思います。ですが、恐れよりものび太を守りたい愛の気持ち勝ったのです。

だから大型台風と対決しようと決意したのです。

台風のフー子の主題

「他人への思いやりは人間を成長させる」がこの物語の主題です。

フー子は最後に大型台風と対決して消滅します。後日、のび太は風が起きたのを見て「フー子を思い出す」と寂しそうに言います。

この時、ドラえもんは優しい眼差しを浮かべます。

おそらくドラえもんはのび太の成長を感じ取ったのでしょう。

他方、フー子はのび太の愛情を受けて自己を犠牲にします。自分よりも他人を思いやるフー子の気持ち、それがのび太を成長させたのです。

中学受験の国語読解学習のポイント

転換点の把握、その背景、転換点以降の行動、構造化、主題の把握という順番で物語を読み解いていきました。

いきなり「登場人物の気持ちを感じる」のではなく順を追って「こうだからこう」という具合に把握していきました。

 

物語を読み、登場人物の気持ちを推測し、主題を把握するにはこういった手続きが必要です。

 

まずは転換点となる出来事、行動は何なのかを読み取る事を意識してドラマでも映画でも、もちろん小説でも良いので読んだり、見たりして下さい。

行動様式の変化、目的の変化に着目すれば転換点を発見できます。

 

すると背景、以降の行動の理由、構造がわかって、主題を把握でき、読解力に繋がるのです。

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