株式会社「栄光」個別指導塾講師の過労死について 働き方改革よりも経営合理化を

株式会社「栄光」個別指導塾講師の過労死について 働き方改革よりも経営合理化を

まずはこの度亡くなられた株式会社栄光、個別指導塾(「ビザビ」)の講師の方のご冥福をお祈りいたします。

また、ご家族の方のご心痛お察し申し上げます。

 

このニュースが出てから7日以上経ちましたので、記事を上梓しようと思います。

 

さて、こういったニュースが出ると感情的な反応が先に立ちます。

塾のコンプライアンスや、過重労働を強いたこと自体に対する糾弾でございます。

 

ですが、問題は別にあると私は考えております。

 

塾の経営、つまり塾が金を稼ぐという行為の仕組み自体に問題があるのでは、と。

 

ちなみに株式会社栄光の運営する栄光ゼミナールは以前資料請求を行った時にいの一番に電話をかけてきた塾でした。明らかに素人の女性による営業コールでございました。

そして実力テストとやらへの参加を断ると資料を送ってこなかった塾です。

 

もっと面白いトークしてくれたら参加しても良かったんですけど。残念ながら下手な営業でございました。

 

ではいきましょう。

塾は労力の割には儲からない

私、塾は金かかるぞー、やばいぞー、と過去に何回か書いてます。とくに中学受験を控えた小学6年生の金のかかり方は目を見張るものがあります。

 

で、そんなに金がかかる塾って儲かってるんですかね?

 

いいえ、労力の割には大して儲かってません。

 

塾ってのは労力の割には儲からない業種なんですよ。なぜなら人力だから。21世紀の今でも江戸時代の飛脚とあんまり変わらないビジネスモデルなんですね。

 

では、件の株式会社栄光も含めた大手塾の決算資料から営業利益率を見ていきましょう。

※各塾の2018年度3月期決算より(市進学院は2018年2月期)

塾名営業利益率
株式会社栄光6.4%
早稲田アカデミー5%
四谷大塚12.8%
市進ホールディングス(市進学院)2.2%

※四谷大塚は株式会社ナガセの決算資料のセグメント情報を参照してます

営業利益率というのは本業でどれだけ儲ける力があるのかという指標です。これを見ると儲かる力が分かるというわけです。SAPIX(代々木ゼミナール)と日能研は決算資料が見つかりませんでしたので上にはございません。

 

こちらを見ると四谷大塚がだいぶ儲けているように見えますね。

でも、四谷大塚の営業利益は本部経費やら、減価償却費やらを差し引いていない数字なんです。実質的にはだいたい一桁台だと思っていただいて良いです。

 

おおよそ塾の本業による儲けは5〜7%くらいというのが分かりますね。市進学院の営業利益率が低いのは何か問題がありそうですが、今回の趣旨はそこではありません。また別の機会に。

 

で、これ多いんですかね?少ないんですかね?

 

東証一部上場企業の平均的な営業利益率はというと7.6%です。

参照元:みずほ証券東証一部2018年3月期決算集計 より

 

塾産業は東証一部上場企業の平均からするとちょい利益率が悪いですが、別に悪い感じには見えませんよね。

大手でブランド力がある塾に限って言いますと。

 

じゃあそこそこ儲かるじゃねえか嘘つき!と思わないでくださいよ。

 

儲け方が違うんです。

言いましたよね。人力だって。

 

塾を代表とする教育産業は人力なんです。

商社だったらモノを右から左に流して儲けますよね(まぁそんなモデルは最近流行らないんだけど)。製造だったらモノを作って儲けますよね。

 

ざっくり言うと商社は右から左に流す商品の付加価値を上げたり、効率を上げることで儲けが増えます。製造は作り方を効率化したり、付加価値の高いモノを作ると儲けが増えます。

 

で、教育産業=塾の商品ってなんですか?

そうですね。授業、つまり講師です。講師の質を上げるか、講師を効率良く働かせると儲けが増えます。

逆に言いますと従来型の対面型授業を採用する限り、講師の質を上げるか効率よく働かせないと儲からないんです。

 

すると何が起きるでしょうか?

質の高い講師を雇うよりも短期的には今いる講師に頑張ってもらった方が手っ取り早く儲かるんです。だから講師を馬車馬のように働かせます。つまり、一人当たりの講師が担当する生徒数を増やします。

 

経営者が儲け方を変えないという前提での合理的判断は、一人の講師が担当する生徒数の増加です。

 

では、今回のニュースに出た株式会社栄光が運営する個別指導塾が儲かっていたのか推定してみましょう。

今回の教室の利益率を推定する

大前提として、営業利益は売上から売上原価と販売費および一般管理費を差し引くと求められます。

売上ー売上原価ー販売費および一般管理費=営業利益

です。

売上を推定する

栄光ゼミナールの個別指導塾1教科あたりの月額費用は21000円らしいです。参照元はのろままさん通信というサイトです。

真偽のほどは半々くらいですが仕方ありません。ネットに載せてもいないですし、資料請求しても資料を送ってこないのですから。

 

今回ニュースになった教室では180人の生徒がいたそうです。

生徒一人あたり平均で1.2教科を受講しているという仮定のもとで計算しますと、

21000円×1.2×180=453.6万/月

となります。これが月の売上となります。

売上原価と販売費および一般管理費を推定する

今回、ニュースになった教室の基礎データを下のニュースから拾ってきます。

参照するニュース:弁護士ドットコム

小学生から高校生まで約180人の生徒が通っていたが、常駐する正社員は男性と女性部下の2人しかいなかった。生徒の個別指導は主に大学生アルバイト約30人が担当していた

引用元:弁護士ドットコム

過労死した室長と正社員の女性の2人で切り盛りをしており、バイトが30人いたんですね。

 

では、バイトにかかる費用を計算しましょう。

栄光ゼミナール個別指導のアルバイトの給与は1授業80分で1830円〜(昇給あり)です。

参照元:栄光キャンパスネット

 

一人のアルバイトは1つの授業で1人〜2人ほどを見ますので、平均で1授業あたり1.5人を見ているものとします。

 

生徒が週2回塾に通っているとすると180人×2回÷1.5人=240回/週の授業となります。月に直すと約960回授業をすることになります。

 

1回の授業あたりのバイトへの支出は1830円〜(昇給あり)。

1830円×960回=1,756,800円

月で176万円ほどアルバイトに払っていることになります。

 

次に正社員の給料を見ていきましょう。en japanに求人が載ってますのでそちらを参照します。

モデル給料として教室長が月給31万となってます。そして大卒の初任給が約21万。

参照元:en japanより

 

また、年2回の賞与があるそうです。とりあえず年間で賞与が4ヶ月分くらいは出るだろう、と見積もっておきます。

教室長の賞与を月でならすと約10万、もう一人の正社員は7万。

 

また、時間外手当が上限5万つきます。当然、ここの教室では付いていたものと考えられますから二人で10万。

 

今回の教室では教室長と正社員の二人で運営しておりましたので、正社員の人件費は月に79万となります。

 

アルバイトと正社員合わせてしめて人件費で月255万

賃料は周辺相場と平米数を勘案すると20万くらい。

その他諸々、月10万くらいかかるものとします。このあたりは適当です。

 

しめて売上原価は285万

 

次に販売費および一般管理費を見ていきます。

決算資料に出てますね。全体で年間64億9600万。教室数は首都圏を中心に440教室とのことですので、1教室あたりの負担は年間で1476万。月でならした販売費および一般管理費は123万となります。

 

つまり、売上原価と販売費および一般管理費の合計支出で月408万です。

利益率を算出する

で、上で求めた収入から支出を差し引いて利益を求め、それを収入で割ります。

収入:453.6万

支出:408万

利益:45.6万

営業利益率:10.1%

 

手がかりが少なくかなりアバウトな見積もりですが、利益の面で見ると優秀な教室だったのではないでしょうか。業界平均を上回っていると推定できますので。

利益を上げられるというのは多くの親子の支持を得られているということでもあります。

 

つまり、塾における利益ってのは、親御様とお子さんのスマイルの総量を金に換算したものです。この教室は業界平均よりも多くの親子を笑顔にしていた、つまり優秀だったってわけです。

スマイルは0円じゃない

一人の正社員あたり90人は多すぎるとか会社がひどすぎるって意見、めちゃくちゃ多いですよね。でも考えてみましょうよ、これが半分の45人だったら利益出ますかね?

この会社が運営する個別教室の経営手法では利益は出ません。赤字です。つまり潰れます。

 

潰れてしまって嬉しい人がいますかね?親御様とお子さんの笑顔の数が減り、従業員の生活が破綻します。

ですから、単純に正社員一人当たりの生徒数を減らせだの、労働環境を改善しろ、だの言うのはナンセンスです。

 

「悪そうな奴だからぶっ叩いてやれ、どうなっても構うものか」という正義感は素晴らしいですが、法治国家ではないところでやって頂いた方がいいですね。

 

で、解決策は儲け方を変えるしかありません。働き方改革の前にまずは経営の合理化でしょう。

塾における儲けの本質は親と子供のスマイルの数と質の確保、それから換金効率です。

 

スマイルの数×スマイルの質×換金効率=儲け

ってわけ。

 

この3つの変数のどれかを合理的な方法で上昇させると儲けが増えて会社が幸せになります。会社が幸せになると講師もちょっと幸せになる確率が高い。

 

塾の講師がちょっと幸せになると、親と子供が幸せになるために時間をさくことができ、結果的に親と子供が幸せになり、社会全体の幸福度が増します。

 

で、おおよそ普通のブログではここで変な情報商材とか商品の紹介が出てくるわけですが、私は紹介しません。

 

なぜなら自分で考えて自分で勝ち取ったアイデアこそ価値があると考えるからです。人のアイデアで金稼ぐなんて、誰かが3日間履いたパンツを履くようなものです。気持ち悪い。

 

一つでも多くのスマイルを増やして、そのスマイルを効率よく金に変える方法を一緒に考えましょう。

 

レッツシンキング。

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