絵本「ぐるんぱのようちえん」読解・解説 小学一年生、二年生向け読書のすすめ
小学校低学年(一年生、二年生)向けのおすすめ絵本「ぐるんぱのようちえん」を紹介します。さほど長くない絵本なので読み聞かせにも向いています。
絵本「ぐるんぱのようちえん」おすすめポイント
①全てひらがなで書かれている
全てひらがなで書かれているので、子供が読みやすく、幼稚園の年中、年長さんくらいでしたら一人で読めます。読み聞かせるだけでなく、後で一人で読むのに適した絵本です。
②簡単に読めるがテーマが深い
幼稚園児でも読める簡単な内容ですが、テーマは他者の発見です。物語を追うだけでも楽しく、また良く読み込むと人が生きていく上で大事なテーマにも気づける絵本です。
③50年以上読み続けられてきた実績
実はこの作品、50年以上前に発行され今でも書店で手に取ることができる大ロングセラーの絵本です。厚生省中央児童福祉審議会推薦図書、全国学校図書館協議会選定図書にも選ばれており、優れた絵本として太鼓判を押されています。
多くの人の目を経た傑作であり、この事実だけでも読む価値があると言えるでしょう。
あらすじ
①ぐるんぱが働きに出て行くまで
あるところにぐるんぱという象がいました。ぐるんぱは一人ぼっちで暮らしてきて、臭くて汚い象でした。
ぐるんぱは一人ぼっちでいることが寂しくて仕方がありませんでした。
ある時、ぐるんぱの住んでいるジャングルで他の象たちがぐるんぱを囲んで会議をしていました。みんなは話し合いの結果、ぐるんぱを働きに出すことに決めました。
ぐるんぱは臭くて汚かったので働きに行く前に川で汚れを洗い落として働きに出ていきました。
②どこに行っても失敗ばかりのぐるんぱ
最初に行ったのはビスケット屋さんでしたが、あまりに大きなビスケットを作ってしまい誰も買わず、店を追い出されてしまいました。
次はお皿作りの工房でしたがここでも大きなお皿を作ってしまったぐるんぱは追い出されてしまいました。
その次は靴屋さんでしたがここでも同じように大きな靴を作ってしまい、誰も履くことがなく、店をお追い出されてしまいました。
次はピアノ工場でしたが同じように大きすぎるピアノを作ってしまい、誰も弾けないので追い出されてしまいました。
最後に行ったのは自動車工場でしたが、ここでも大きすぎる車を作ってしまい誰も運転できないため追い出されてしまいました。
③居場所を見つけたぐるんぱ
ぐるんぱはしょんぼりして作ったビスケット、お皿、靴、ピアノを車に乗せて出ていきました。すると、12人の子供がいる家にたどり着き、その家のお母さんから頼まれ子供の世話をすることになりました。
ピアノを弾いたり、ビスケットをあげたりして子供たちを喜ばせたぐるんぱはようちえんを開き、大きな靴をかくれんぼの道具にしたり、お皿をプールにしたりして子供たちを喜ばせました。
ぐるんぱは居場所は見つけたのでもう寂しくはありませんでした。
物語の構造・転換点・要約
ぐるんぱの置かれた状況や出来事の変化に着目すると、あらすじで書いた①〜③までの3つの構造に分けることができます。
では、変化を起こした出来事、つまり転換点を見つけていきましょう。
第一の転換点
一人きりだったぐるんぱを囲んで他の象が会議をし、働きに出すために汚れを落として、ぐるんぱがにっこり笑って出かけて行ったところまでが最初の構造です。
ここでの転換点は会議をしたことで、その会議によって働きに出ることが決まり、ぐるんぱの汚れを落とすことになりました。
さて、ぐるんぱが汚れて臭かったのは果たして一人きりでいたからでしょうか?
一人きりだったのが汚れて臭くなっていた、すなわち身の回りの手入れをしない行動には直接結びつきません。一人きりというのは汚れて臭いことの直接の理由ではありません。
本質的な理由は一人きりの状況により、他者の存在を顧みることなく、自分の汚れや臭さが他者から見たときにどのように映るのかを想像できなかったからです。ぐるんぱの想像力欠如は第二の構造においても継続されています。
ぐるんぱは会議で他の象に囲まれて、他者の目に触れ、汚れを落とします。初めて他者の目に触れた出来事により自らの外見が変化します。
ポイントは他者の目です。
第一番目の構造を読むと、自分一人であった存在が、他者の存在により成長していく物語だというのが推測できますが、それは後述します。
読み聞かせるのでしたら以下のような問いを投げかけてみてください。
心理:ぐるんぱは一人きりでどういう気持ちだったのかな?
理由:ぐるんぱはどうして汚れて臭かったのかな?
状況:ぐるんぱはみんなの助けを借りてどうなったのかな?
心理:どうしてきれいになったぐるんぱはにっこり笑っていたのかな?
第二の転換点
ビスケット屋を追い出され、お皿作りの工房を追い出され、靴屋を追い出され、ピアノ工場を追い出され、車屋を追い出されたぐるんぱが12人の子供のいる家にたどり着くまでが第二の構造です。
転換点はそれぞれの店を追い出されたことです。
さて、それぞれの追い出されたお店や工場では何が原因になっていたのかを考えてみると共通して「ぐるんぱが大きすぎるものを作った」のに起因しています。
ぐるんぱは悪意はありませんでしたが、誰も食べられない大きなビスケットを作り、誰も使えない大きなお皿を作り、誰も履けない大きな靴を作り、誰も弾けない大きなピアノを作り、誰も乗れない大きな車を作ったのです。
なぜでしょうか?
ぐるんぱが他者を意識して物作りをしていたのではなく、自分を基準として物作りをしたからです。
会議によって働きに出される前にぐるんぱは汚れを洗い落とされました。が、それはぐるんぱの意志ではなく、ぐるんぱの周りにいた象たちのはからいによるものです。
つまり、ぐるんぱは自らを自らの意志によって変えたのではなく他者の意志によって変えられたのです。よって自らの意識はほぼ変わっていません。
ぐるんぱは一人きりでいた時の意識とほぼ変わらずに働きに出て行ったと推測されます。
したがって、物作りをするときに他者を意識できなかったのです。
読み聞かせではこんな問いを投げかけてみてください。
状況:ぐるんぱは何をしに出かけて行ったのかな?
背景:ぐるんぱが働きに出かけて行ったのは何があったからかな?
理由:どうしてぐるんぱは大きすぎるものを作ったのかな?
心理:追い出された時ぐるんぱはどう感じたかな?
第三の構造
ぐるんぱはがっかりして12人の子供がいる家にたどり着き、そこでお母さんに頼まれるままに子供の面倒を見ます。ピアノを弾いて歌い、大きなビスケットをちぎってあげて、更にはようちえんを開き、沢山の子供を喜ばせました。
転換点は子供の面倒を頼まれたことです。
この出来事により、ぐるんぱの行動はこれまでの自分本位の行動から「子供たちを喜ばせるための行動」へと変化します。
その象徴的な出来事が、大きなビスケットをちぎってあげた行動です。子供たちはぐるんぱよりも小さい存在であり、その子供たちが食べるためには「ちぎる」行為が必要です。
この行動はぐるんぱが自分本位の思考と行動から、子供たち本位の行動へと変化したことを明確に示唆しています。
結果として何が起きたかというと、ぐるんぱは幼稚園を開き、大きすぎる靴や大きすぎる皿を子供たちの遊具に変えて子供たちを喜ばせるようになりました。
そして、
ぐるんぱは、もうさみしくありません。
引用元 ぐるんぱのようちえん さく:西内ミナミ え:堀内誠一
となったのです。
読み聞かせではこんな問いを投げかけてみてください。
状況:ぐるんぱは子供たちに何をしてあげたのかな?
背景:ぐるんぱが子供たちを見たのは何があったからかな?
理由:ぐるんぱがビスケットをちぎってあげたのは何でかな?
心理:ぐるんぱがさみしくなくなったのは何でかな?
要約
第一の構造は寂しく生活していたぐるんぱが働きに出たまでを描いています。
第二の構造は働きに出たぐるんぱが自分本位の思考によって失敗する様を描いています。
第三の構造は子供たちの立場を考えた行動がぐるんぱを寂しさから解放させた過程を描いています。
要約としては以下の通りです。
寂しい生活を送っていたぐらんぱは働きに出たもののどこでも失敗ばかり。そんなぐらんぱが子供達のために考え、行動することにより自らの居場所を見つける物語。
主題
この物語の主題は
「自分本位ではなく相手本位で行動することが自分の幸福にも繋がる」
です。
最後に聞いてみてください。
主題:どうしてぐるんぱは最後に寂しくなくなったのかな?
絵本の読み聞かせの作法
絵本の読み聞かせが子供の情操教育、もしくは子供の学習能力を向上させると言われていますが、どうやって読み聞かせをするのか分からない方は多いのではないでしょうか?
読み聞かせで大切なのは次の3つです。
- 親が物語の隠喩、背景、状況、心理、主題を把握する
- それらのポイントを子供が自ら発見するための問いを投げかける
- 子供の答えを否定しない、とにかく褒める
このようにして良い聞かせをすると子供が理解しながら本を読めるようになってきます。実践してみると結構子供が理解していることに驚くと思いますよ。
絵本の読み聞かせによる効果
精読により身につく能力とは「書いていることを正しく読む能力」と「書いていないことを書いていることから推測する能力」の2つです。
この能力を身に付けることによって正しく物事を把握し、把握した事柄から、その事柄以上を推定し読み取ることができるようになります。
そして正しく物事を把握するために、なぜその物事が発生したのかという理由や、その物事が発生した背景に興味を持てるようになり、やがて人の心理が読めるようになります。
例えば、お父さんがお母さんからプレゼントをもらって笑っている、という出来事から、お父さんが喜んでいる事実を知り、お父さんが喜んでいることの背景にはそのプレゼントが欲しかったからという理由を把握し、お母さんが普段お父さんのことを気にかけているという背景を推測することができ、そして、お母さんがプレゼントを買った時の気持ちを推測することができる。
そういった能力も含めて絵本の精読で身に付けることができるのが「読む技術」です。
すーちゃんとねこの読解・解説も読んでみてください。
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