絵本「すーちゃんとねこ」読解・解説 小学一年生、二年生向け読書のすすめ
幼稚園〜小学校低学年(一年生、二年生)向けのおすすめ絵本「すーちゃんとねこ」を紹介します。字が少なめで読み聞かせに向いています。
また、絵で感情をとてもうまく表現していますので、言葉がきちんと理解できなくても読める点で幼稚園児にもおすすめの絵本です。
絵本「すーちゃんとねこ」のおすすめポイント
①文章量が少なく読み聞かせがしやすい
文章量が多いと読むだけで精一杯になってしまいます。が、この絵本は文章量が少ないのでパッパッとリズムよく読み聞かせができます。
先を急がず、文章を読み、絵を見ながら、質問を繰り返してあげると質の高いコミュニケーションを子供と取れると思いますよ。
②絵だけで物語が理解できる
この作者、さのようこさんは絵で物語を表現するのがとても上手です。
実際、文章を読まなくても、絵だけで内容が理解できます。言葉が分からなくても、字が読めなくても、絵だけで物語をよく理解できますので、幼稚園の年少さん、あるいはそれ以下の年齢の子供に読み聞かせるには最適です。
③気持ちを想像しやすい
すーちゃんとねこちゃんの関係は幼い兄弟の関係によく似ています。
お姉ちゃんであるすーちゃん、弟のねこちゃん。
幼い兄弟であれば、どこかで経験しているはずの感情と行動ですので、二人の気持ちを想像しやすく、物語の理解もしやすいのではと思います。
気持ちの良い結末は、いつも喧嘩している兄弟であれば何かを考えるきっかけになるのではないでしょうか。
あらすじ
①ねこちゃんとすーちゃんの何気ない日常
すーちゃんという女の子とねこちゃんが散歩していると、木の上のあたりに風船があるのをねこちゃんが先に発見します。
ねこちゃんは木に登って風船をとりましたが、すーちゃんがねこちゃんから風船を奪って家に持って帰ってしまいます。
②すーちゃんの意地悪
すーちゃんはお家に鍵をかけてねこちゃんが入れないようにし、すーちゃんは風船にキスをしたり、風船とおやつを食べる真似をしたり、洋服を着せたり、お風呂に入ったりします。
ねこちゃんはその様子を見て「ぼくのふうせん・・・」と寂しそうに言います。
夜になり、すーちゃんが寝てしまってもねこちゃんは家の外で起きています。
③ねこちゃんの仕返し
ねこちゃんは早朝に木の上に登って風船が飛んでくるのを待ちます。
すると、どこかから風に乗ってたくさんの風船が飛んできます。沢山の風船を携えたねこちゃんは、1個しか風船を持っていないすーちゃんのところにきて「これ ぜーんぶ ぼくの ふうせん」と言います。
すーちゃんはねこちゃんに風船をくれるように懇願しますが、ねこちゃんは拒否し、持っていた風船を次々に空に飛ばしていきます。
④和解
飛んでいく風船を見ながらすーちゃんは自分の持っていた風船も飛ばしてしまいます。
風船はどこまで飛んでいくのでしょう。
完
物語の構造・転換点・要約
物語の構造は上のあらすじで書いたように①〜④までの4つに分けられます。
文章だけでなく絵からも二人の感情が伝わってくるのがこの絵本の優れている点です。
是非、絵からも想像しながら読み聞かせてみてください。
一例として表紙からはこのようなことが読み取れます。
すーちゃんとねこちゃんが背中合わせになって、お互いを見つめています。すーちゃんはねこちゃんを睨んでいるように見え、ねこちゃんはすーちゃんの様子を伺うような表情をしているように見えます。
仲が良ければ背中合わせにはなりませんから、二人が必ずしも仲良しではないことを示唆しています。特にすーちゃんはねこちゃんを睨んでいるような表情をしていることから何らかの負の感情を抱いていることが分かります。
ただし、二人は仲が悪いわけではありません。なぜなら本当に仲が悪ければ背中合わせであれ体が密着するような距離感を保たないと考えられるからです。
この物語は近しい関係における仲違いを描いているのが表紙から読み取れます。
第一の転換点
すーちゃんとねこちゃんが散歩をしているときにねこちゃんが風船を発見し、木の上に登ってねこちゃんが取ってきます。
ここまでがこの物語の第一の構造であり、転換点はねこちゃんが風船を発見したことです。ねこちゃんが風船を木の登って取るまで、二人は散歩をしていますがこの時点では仲良しである様子が絵で描写されています。
同様に木の上に風船を発見した時には二人は手を繋いで横並びで立っています。
また、ねこちゃんが風船を発見したのは「上から何か落ちてこないか」と考えていたからであり、すーちゃんが風船を発見できなかったのは「下に何かないかな」と考えていたからです。
ねこちゃんが風船という、子供にとって素敵なものを発見し、木に登って取ってくるというすーちゃんにはできない芸当を見せた時のすーちゃんの心理は嫉妬と推測されます。
ねこちゃんが先に発見した事実と自分にできないことをねこちゃんがやった、という二つの出来事によりすーちゃんはねこちゃんに強く嫉妬をします。
すると二つの問いに対する答えをロジックで導き出すことができます。
心理:すーちゃんはねこちゃんが風船を取ってきた時にどんな気持ちだったかな?
心理:ねこちゃんが木に登って「ぼくの風船」と言った時はどんな気持ちだったかな?
前者は嫉妬。なぜならねこちゃんが先に風船を発見し、自分にできない芸当で風船を取ったから。
後者は優越感。なぜならすーちゃんよりも先に風船を発見し、自分にしかできない芸当で風船を取ったから。
第二の転換点
すーちゃんはねこちゃんが取ってきた風船を奪って自分の家に走って帰り、ねこちゃんが入れないように鍵をかけ、家の中で風船と遊びます。
すーちゃんが風船を奪ったのが第二の転換点です。
なぜなら風船を奪ったことにより、すーちゃんの行動様式が第一の構造におけるものと明らかに変わるからです。
すーちゃんが風船を奪ったのち、風船とキスしたり、おやつを食べる真似をしたり、お風呂に入ったり、洋服を着せたりしたのはなぜでしょうか?
すーちゃんは前述の通り、風船を先に見つけ、取ってきたねこちゃんに嫉妬しています。
嫉妬という心理から推測すると、これらの行動はねこちゃんに対して「あなたにできないことを私はやっているのよ」と見せつけ、意趣返しをすることが目的となっていると読み取ることができます。
それに対してねこちゃんは「ぼくのふうせん・・・」と泣きそうになりながら何もできずに窓から家をのぞいたり、家の周りをぐるぐる周ります。
ところで、すーちゃんの言動と行動に比べて、ねこちゃんの言動と行動はやや幼く見えます。これは精神的にすーちゃんよりもねこちゃんが幼いことを暗示していると考えられます。
この関係、子供をお持ちの親御様であれば思い当たるところがあるのではないでしょうか?
そう、兄弟の関係に近しいと考えられます。すーちゃんというお姉さんとねこちゃんという弟(作中で僕と言っていることからねこちゃんは弟です)。
自分が優っているとすーちゃんは考えていたのに、劣っているはずのねこちゃんが自分にできないことをした、そのことで自尊心を傷つけられ嫉妬に駆られたすーちゃんがねこちゃんに対して自らが優れているところを誇示する場面が第二の転換点以降では描かれています。
すると以下の二つの問いに答えることができます。
背景:どうしてすーちゃんは風船にキスしたり、お洋服を着せたりしていたのかな?
状況:どうしてねこちゃんが悲しんでるのにすーちゃんは風船を渡さなかったのかな?
前者は、ねこちゃんに対して自分が優っていることを誇示するため
後者は、悲しんで何もできないねこちゃんを見て自らの優越感を満たすため
第三の転換点
すーちゃんが風船と一緒に寝ているとやがて朝が来て、それまで家の周りをうろちょろしていたねこちゃんは突然風船を手に入れた木に登ります。すると、そこへどこからともなく風船が飛んで来て、ねこちゃんは沢山の風船を手に入れます。
第三の構造はここまで。
ここでの転換点はねこちゃんが木に登ったことです。
ではなぜねこちゃんは木に登ったのでしょうか?
それはすーちゃんに劣等感を味わされていたねこちゃんが、すーちゃんにできず、自分にしかできない行動を起こすことですーちゃんを見返せると思ったからです。
その証拠はねこちゃんのこのセリフです。
「ここに とんできた ふうせん とれるのは ぼくだけなんだもん」
ねこちゃんがすーちゃんを見返したい気持ちを持っている決定的な証拠です。
そして実際にねこちゃんはどこからともなく飛んできた風船を沢山手に入れます。
答えは書きませんので考えてみて下さい。
心理:ねこちゃんが急に木に登ったのはなんでかな?
第四の転換点
沢山風船を手に入れたねこちゃんは一つしか風船を持っていないすーちゃんのもとにやってきます。すーちゃんは風船をくれるように言いますが、ねこちゃんは風船を空にどんどん飛ばしていきます。すると、すーちゃんも自分の持っていた、たった一つの風船を飛ばしてしまいます。
この物語の最後の構造です。
ここでの転換点はねこちゃんが沢山の風船をすーちゃんに見せつけたことです。
ねこちゃんはあれだけ得意げになって取っていた風船をなぜ手放したのでしょうか?
風船は二人にとってとても大事なものです。また、二人にとっては双方の上下関係を決定する存在でもあります。
すーちゃんは風船を独り占めすることにより、ねこちゃんに対して優越感を感じていたからです。
ところがねこちゃんはすーちゃんから「ちょうだい」と言われると、その風船を上空に放ってしまいます。
ねこちゃんはすーちゃんに風船を渡したくなかったのですが、それは自らが手に入れたという事実をすーちゃんに誇示し、渡さず上空に放つことにより風船は自分だけのものであり、自分だけが好きに扱える事実をすーちゃんの眼前で明らかにするのが目的だったと推測されます。
ところがその様子を見ていたすーちゃんはあろうことか自分が持っているたった一つの風船を空に放ってしまいます。
すーちゃんが自分の風船を放つ場面を絵本はこのように描写しています。
「ふうせん ふうせん とんでいけ」
ねこちゃんは どんどん ふうせんをとばしている
すーちゃんは とんでいく ふうせんを いっしょうけんめい みていた
「わたしの ふうせんも とんでいけ」
とうとう すーちゃんも とばしちゃった
「ふうせん ふうせん とんでいけ」
すーちゃんと ねこちゃんは いっしょに いった
引用元 すーちゃんとねこ おはなし・え:さのようこ
風船は二人の上下関係を決定する存在、すなわち上下関係(優劣関係)の隠喩です。
それを二人で上空に放っているということは、そうした上下関係(優劣関係)を放棄したと理解できます。
二人がふうせんを上空に放つ時、背中合わせではなく横並びになり、同じように右手を空に掲げています。この光景は二人の対立関係、もしくは優劣の関係が、横並びの対等関係に変わったことを意味しています。
二人が和解したとは読み取れませんが、少なくとも上下関係、対立関係、優劣関係から脱しています。
そのようになった理由は、すーちゃんが飛んでいく風船を「いっしょうけんめいみていた」結果、ねこちゃんに対する優越感を感じることのくだらなさに気づいたものと推測します。
ふうせん、という上下関係、優劣関係のメタファーから解き放たれることをを選択したすーちゃんの成長を感じることができます。
私は子供にこんな質問をします。
隠喩:風船って二人にとってどんな存在だったのかな?
状況:どうしてねこちゃんは風船を飛ばしちゃったのかな?
心理:最後に二人が仲よさそうに見えるけどなんでかな?
要約
自分にはできない方法で風船を手に入れたねこちゃんに嫉妬したすーちゃんが、その象徴である風船を奪い、ねこちゃんにはできない方法で風船で遊ぶ様子を見せつけて仕返しをする。ねこちゃんは再び自分にしかできない方法で風船を手に入れ、放つことですーちゃんに仕返しをするが、喧嘩のくだらなさに気づいた二人が最後は和解する。
主題
近しい関係の者同士の優劣を巡った仲違いからの解放
読み聞かせのポイント まとめ
さて、精読と構造化を行なっていきましたが、どうだったでしょうか?
きちんと読むことにより、良く物語を理解でき、登場人物の心理を洞察でき、主題の発見をすることができたのではないでしょうか?
読み聞かせをするのであればこんなところに気をつけて読んでみてください。きっと読み方が変わるはずです。
- まずは親が物語の隠喩、背景、状況、心理、主題を把握する
- それらのポイントを子供が自ら発見するための問いを投げかける
- 子供の答えを否定しない、とにかく褒める
中学受験の国語の読解力養成
受験で求められる読解力とは書いてあることをそのままに読み、手がかりから推測し、書いてないことまで精読によって読み取る技術、すなわち「読む技術」です。
※このブログでは中学受験の算数と国語の解き方を中心に解説しています。
「読む技術」は絵本であれ、もう少し長い小説であれ、漫画であれ、映画であれ、根本的には同じです。もちろん中学受験の国語でも。
「読む技術」を身に付けると物語を読めるようになるだけでなく、正しく深い思考力が養われます。生きる力をつけていると言っても過言ではありません。
単純に絵本を読んで終わり、では少々寂しい気がいたします。
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