くもんのすいせん図書「ふしぎなたけのこ」(福音館書店) 超読解・解説
くもんのすいせん図書「ふしぎなたけのこ」(福音館書店 作:松野正子 絵:瀬川康男)の読解です。
Aの9番ですので小学一年生向けの絵本です。また、全国学校図書館協議会選定「必読図書」、世界絵本原画展グランプリを受賞しています。
あらすじ
①山の奥深くの村
冒頭で山の奥深くの村であると明示されています。
②たけのこを探しに行くたろ
お母さんにたけのこを掘ってくるように言われ、たろは裏の竹やぶでたけのこを見つけ掘っていきます。
③たけのこが天高く伸びていく
たろがたけのこを掘り、暑くなったので掘っていたのとは別のたけのこに上着をかけるとそのたけのこは伸びていきます。たけのこに掴まったままとてつもなく高い場所まで行ってしまったたろを助けるため、家族のみならず村の人たちが集まってきます。
たろの父がたけのこを切るのを決意した時には、たけのこははるか上空まで伸びていました。するとたけのこは伸びるのに飽きてしまい、竹になろうと思いますが、葉を出す前に一休みすることにします。
④倒れるたけのこ
たろの父がたけのこに斧を入れると巨大なたけのこは倒れていきます。いくつもの山々を越え、たけのこは倒れていきます。昼を過ぎ、夜になり、朝まで倒れ続け、完全に倒れたのは朝のことです。
⑤たろを救う
たろの父たちはたろを救うため、倒れたたけのこに沿って頂点を目指します。ずーっと行くとやがて砂浜に出ました。ようやくたろを見つけた家族は、たろに近くの水をかけます。するとたろは「しおっからい」と言います。隣の家のおじさんが「海なのではないか?」と思います。
⑥海の発見
村の皆は、「池」に向かって走っていき、水をなめます。すると塩辛く、これが池ではなく海だということに気づきます。ひいおばあさんやひいおじいさんがいくつも高い山を越えて行くと海があり、魚や貝や昆布が取れると言っていたのを思い出します。いつしか奥深い村では、迷子になる、という理由で海に行かなくなっていました。村人たちは魚や貝や昆布を取り、倒れたたけのこをつたって道に迷わずに村まで帰ります。
海を発見したその晩に村人たちはたろの誕生日を祝います。村の人たちはそれ以来、倒れたたけのこをつたって海に行くようになります。海の幸によって山奥の村は経済的に潤い、村人たちは幸せに暮らします。
完
物語の要約・転換点
要約
山奥の村に住んでいるたろが裏の竹やぶでたけのこを発見する。暑くなり、別のたけのこに上着をかけると、そのたけのこはどんどん伸びていく。たけのこに掴まっていて、空高くまで運ばれてしまったたろを助けるために、村の人たちがたけのこを切ると、倒れて先端は海まで達する。村の人たちが海を発見する。海の幸によって村は潤い、幸せに暮らす。
転換点
- お母さんがたろにたけのこを掘ってこいと言う
- たろがたけのこに上着をかける
- たろの父がたけのこを切る
- たけのこが倒れる
- 村人たちがたろを助けに行く
- 海を発見する
おすすめのポイント
①全てひらがなで書かれている
全編、ひらがなで書かれていますので小学一年生が読むにはうってつけです。
漢字を読めないのはストレスにしかなりません。ルビが振ってあっても同様です。子供に本を読ませるときはストレスを省き、読むことに集中できるような本を選んでください。
②文字数が少ない
文字数が多くないので読み聞かせにうってつけです。
文字が多いと読んでいて嫌になりますし、長い時間読んでいると読書習慣がない子供にとっては退屈に感じられます。
寝る前の読み聞かせで子供が集中していられるのはせいぜい5〜10分です。それくらいの時間で読める本を選んであげてください。
③50年以上の歳月を経て読み続けられてきた物語である
この物語が最初に発表されてから50年以上が経っています。それだけの長きにわたり生き残り続けてきた絵本ですので、多くの人の目に触れ評価されてきたということです。
多くの時間と、多くの人の目は嘘をつきません。最新の絵本よりも、評価の確定したいわゆる名作を読むことは読解力を鍛えるにおいて効率的です。
読解のポイント
たけのこを掘り始めたとき、たろは別のたけのこに上着をかけた
どうしてたけのこが伸びていったのかに注目します。
たけのこが伸びるというのは通常ではありえません。したがってこれは何らかの隠喩です。伸びる直前にたろは上着をたけのこにかけています。
すると、
たろは、うわぎを すぐそばの たけのこに ひょいとかけた。
と、そのとたんー
その たけのこが ぐぐぐっと のびた。
引用元 ふしぎなたけのこ 作:松野正子 絵:瀬川康男
はい、めちゃくちゃ違和感がありますね。
「すぐそばの」と言っていますから、たろが掘っていたたけのこではなく、別のたけのこに上着をかけたんです。すると、掘っていたたけのこではなく、上着をかけた別のたけのこが伸び始めるのです。
子供向け絵本だから、童話だから、昔話だから不思議なことが起きて当たり前?それは正しい読解における態度ではありません。
単なる思い込みです。
本を読む上で大事なのは文章に書かれていることだけから読解する態度です。少なくとも中学受験ではそういった力が求められます。
書き手に対する信頼とでも言いましょうか。全てに意味があると考えて読む態度とでも言いましょうか。
自分の先入観や思い込みは捨てましょう。本に書かれていることから論理的に推測しましょう。正しい読解とはそういうものです。
では掘っていたのとは別のたけのこが上着をかけたことで伸びていった理由を推測していきます。
上着をかけた前後のたろの行動と事実を見てみます。
直前:上着をかけたのとは別のたけのこを掘っていた。そのたけのこは伸びたたけのこよりも大きかった。
直後:上着をかけたたけのこが伸びていく。たろはしがみついたまま上空に運ばれていく。
掘っていたたけのこと、上着をかけたたけのこの二つのたけのこが出てくる点に注目します。結論から言いますと、これは「上着をかけたたけのこが伸びた」という事実を強調しています。
掘っているだけではたけのこは成長せず、上着をかけるという行為を通して初めてたけのこは成長した、その事実を対比によって強調しています。
つまり、上着をかけるという行為こそがたけのこの成長の理由である、と判断できます。
かつ、この上着は子供であるたろの上着です。成長途中の子供であるたろが子供用の上着をかけた途端、たけのこは成長するのです。
成長したたけのこはどうなったのか。
村人たちを海まで案内してくれ、何度も行き来できる道しるべとなったのです。成長したたけのこによって、村人たちは魚や貝や昆布をとってくることができるようになります。ひいおばあちゃんやひいおじいちゃんが行なっていた営みを、迷子になるからという理由で諦めていた大人たちに希望と救いを与える存在がたけのこです。
たけのこは伸びるのに飽きてたけになろうとした
たけのこが倒れる前に重要な場面が描かれています。
たけのこは のびるのに あきた。
そして、たけになることに きめた。
はっぱを だすまえに、ひとやすみ
することにした。
引用元 ふしぎなたけのこ 作:松野正子 絵:瀬川康男
たけのこは竹になろうと決めますが、その前に一休みします。一休みしている間に切られてしまいます。つまり、竹にならずにたけのこのまま切られるのです。
竹は大人の隠喩です。たけのこは子供〜青年期の隠喩です。たけのこがたけになってしまえば、表面が硬くなり、もはや切り倒すことが困難になります。硬くなってしまう前に切り倒す必要があったのです。竹になってしまえば海に到達することもなかったでしょう。
また、たけのこは「成長に飽きた」と言っています。飽きることにより硬化していこうとするのです。これは大人が希望を捨てて、現状維持をすることの隠喩と捉えます。
竹は大人の凝り固まった観念を意味していると読み解きます。手がかりになるのが、「迷子になるから海に行かなくなった事実」です。たけのこが海に到達するまでは、「海なんか行けるわけない」と大人は思っていたのです。
それに対して、子供〜青年期を意味するたけのこはぐんぐん伸びて海にまで到達します。
大人の凝り固まった観念を子供〜青年期の希望が打ち砕く象徴的な出来事です。
たろの子供用の上着は、まだ成長途上であることの隠喩です。それをたけのこにかけたことにより、たけのこが成長を始めるのです。たけのこは子供の隠喩です。
主題
子供の成長は大人の凝り固まった観念を打ち砕き、やがて希望を見出す。
物語に向かう態度
違和感に気づき、その違和感の根源を辿る態度が物語の読解につながります。
何故、登場人物はそんな行動をとったのか?それまでの流れからすると突飛に見える。何か意味があるはずだ。前後関係から考えてみよう。直前の行動と直後の行動から意味が見えてきた。順序を追って考えていくと、こういうことなんじゃないのか。この判断はまだ80%くらいの精度だ。もっと読んでいき検証していこう。
このようにして読んでいくと、物語が見えてきます。
違和感に気づき、違和感の正体を知りたいと思い、意味があるはずだと書き手を信頼し、構造を明らかにしてから、丹念に読み解く、といった感じですね。
重ねて言いますが、物語を読むときは「当たり前」「どうせ〜」「何となく」、これらの先入観を廃してください。その代わりに「何か意味がある」「意味を発見したい」「分かった!」この感覚を大事にしてください。
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