開成中学入試問題「算数」を徹底解説、平成29年度「算数」大問3(2)相似の図形より学習を行うー第3回

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まずは翻訳せよ

問題を解くまでのプロセスを分解し、段階を踏んで解くことの重要性は何度かお話いたしました。

中でも重要なのはstep1~3のプロセスです。応用問題と言われる文章題においてはここでほぼ勝負が決すると言っても過言ではありません。

大問3の(2)の問題でもまずは問題文条件を整理し、明らかにしていきました。

そして方向性を見定め、解答までの道のりを明らかにしました。ここまでの段階がしっかりできていれば後は塾や参考書で教わった解法を想起し、その解法にしたがって解くだけです。

もちろん解法を覚えることや、それを利用すること、計算することを軽視しているわけではありません。それもとても重要です。

ですが、私があえて問題を翻訳し、理解をし、そして問われていることを特定する点に焦点を置いている理由は、その段階が算数の学習から抜け落ち無視されがちな段階であるからです。

あるいは私自身の実体験をもとに「何故解けなかったのか」ということの理由を突き詰めた結果、そこに辿り着いたということでもあります。

まずは問われていることの特定に努めましょう、そして特定するために内容を理解しましょう、理解するために翻訳を行っていきましょう。

翻訳がなければ次の段階もありません。

プロジェクトマネジャーであり、専門家であれ

step1~5までの段階に分けて解く、ということは一つの問題をプロジェクトと見立てたときに、そのプロジェクトを成功に導く(正答を得る)プロジェクトマネージャーのような思考が必要です。

プロジェクトマネジメントにおいては以下のような段階を経てプロジェクトを成功に導くのが一般的です。

①要求を確認する(顧客の話を聞く) → ②要求を理解する → ③要件を定義する → ④要件を満たすための設計を行う → ⑤設計に則って具体的な構築方法を導出する → ⑥構築を行う → テストを行う・・・

それぞれの段階において専門家がその役割を担い、プロジェクトマネージャーは予算や納期を管理しながら、各段階における仕事に過不足がないかチェックを行います。

問題が発生した時には顧客とのコミュニケーションをとり解決に導いたり、ひとつ前の段階に戻ってプロジェクトの再構築を図ります。

その大前提は①の要求を確認する(顧客の話を聞く)という段階が正しいからであって、そもそも①が間違っていればその次に至る段階においても間違うということになります。

問題を解くにあたっても同じで、条件を漏れなくダブりなく抽出できていなければ必ず次の段階では誤りが発生します。

 

この構造と問題は私が言うところのstep1~5を通じて解くという図式は似通っています。むしろ私自身がプロジェクトマネジメントの技術を通じてこういった解法を受験問題に当てはめているから似通っているのは当然です。

ただし、プロジェクトマネージャーの仕事と問題を解くということの決定的な違いは一人で工程の管理と、工程における作業を行うという点です。

受験生はプロジェクトマネージャーであり、専門家でなければならないということです。

 

実は基本問題や優しい応用問題はstep4とstep5を身につけることで解けてしまいます。

なぜならば要件を定義するまでもなく、問題文を読めば要件は自明のものでありstep4が容易に想起されるからです。

 

前回旅人算を解きましたので旅人算の基本的な問題を見てみましょう。

1.A君はC地点から分速50mでD地点に向かいます。B君はD地点から分速70mでC地点に向かいます。C地点からD地点までは1200m離れています。A君とB君は同時に出発しました。A君とB君が出会うのは出発から何分後でしょう。

2.A君はC地点から分速50mでD地点に向かいます。B君はA君が出発してから6分後にC地点から分速70mでD地点に向かいます。B君がA君に追いつくのはA君が出発してから何分後でしょう。

 

1は1200÷(50+70)=10で10分後が答えです。

2は50×6÷(70-50)=15で15分後が答えです。

 

この問題を解けない中学受験生はいないと思います。

ではなぜ解けるのかというと、上記の問題が旅人算における定型の問題であり、解釈の必要すらないからです。問題文の形式を見ると旅人算であることは容易に特定できますし、そのまま定型の解法を当てはめれば解けるから、悩むことなく解けるのです。

ただ、こんな簡単な問題は受験では絶対に出てきません。一見すると旅人算の形式ではないように偽装しているかもしれませんし、大問3の(2)で解いたように相似や相似比を使わないと解けないような問題(旅人算と相似の複合問題)になっています。

解法を覚えたとしても、その解法を利用するところにまで辿り着けないから応用的な受験問題は解けないのです。

ところが、塾で基本演習として出題される基本問題は上記のように解釈の必要がなく、たとえ解釈の必要があったとしても「これは旅人算である」と容易に特定可能な状況において出題されていたりします。

つまり、step1~3の問題文の条件を整理したり、方向性を導いたり、道筋を特定することなしに解法や解法の利用の仕方を知っていれば解けてしまう問題が塾のテストでは出題されていたりします。

 

これは大きな問題です。

 

なぜならば、「塾でよい点数をとれた」=「その単元は理解している」と勘違いするからです。

正確に言うと解法を覚え、使えるというだけなのにその単元は理解していると思い込んでしまうからです。確かに分かりやすい問題や特定が容易な状況では解法の想起や利用ができるのかもしれません。

しかし、数多くの解法から特定の解法を想起しなくてはいけない状況や、利用にあたっても他の解法と絡めた利用が求められる時に通用しなくなります。

その時に、その前段階の「条件整理」「方向性の特定」「道のりの設計」の流れに思い当たりそこを勉強するのか、はたまた既に知っている解法や利用方法をなぞるのか、それは受験生のセンス次第・・・に任せているからセンスの良い子はセンスが良いし、センスの悪い子はいつまで経ってもセンスの悪いまま。

私がここで色々書いている目的はセンスが悪かろうが、正しく学習方法を見定め学習すれば正しい成果を得ることができる、それを伝えたいからです。

 

そして、そういったことを教えてくれる大人は私の身の回りにいなかった、だからここで私が伝えたい、それだけです。

各stepをクリアして正答を導くには各stepの学習を経て、そのstepにおける専門家になる必要があります。ですが、実はstep4とstep5ができることにより、step1~step5までを経なくとも正答を容易に得ることができてしまいます。そのことにより、step4とstep5以外が必要ないように感じてしまうのです。基本的な問題、容易な応用問題の限りにおいては。

だから、受験レベルの問題にぶち当たり解けないという現実に直面するまでは、プロジェクトマネジメント(step1~5までの流れ)を軽視し、直接的に問題を解けそうなstep4、step5の学習のみに傾倒してしまうのです。

解けないという現実にぶち当たったときには、たいてい何を勉強すれば解けるのかがわからず、塾の成績は良いけれども肝心の受験問題は解けない、ということになってしまうのです。

難関校の合格に必要なのは各stepをしっかりとこなせる能力を身に着け、そして各stepに沿って計画的に解く能力です。

ある単元の問題が解けたとしても、油断せず「条件を漏れなくダブりなく整理し発見できているか」「その条件から正しい方向性を示せているか」「方向性をもとに道筋を具体的に想起できているか」等しっかりと各stepの能力を高めるための自問自答が必要です。

全てのstepにおける能力が一定水準にあり、全てのstepを経て問題を解く訓練ができていることが難関校の問題を解くには必要なことです。

プロジェクトマネージャーであり、専門家であれというのはそういった意味です。

設計者として有能であってもヒアリング能力に欠く技術者というのは沢山いるものです。

頭がいいとかセンスがあるという言葉は大嫌いです

勉強ができると「センスがある」とか「頭がいい」という言われ方をします。こと、算数においてはセンスとか頭がいいとかいうことを言われがちです。

確かに問題文を見るだけで、解答に至るまでの過程を意識せずに解ける人というのはいるのでしょう。とくに算数においてはセンスがある人が有利なのでしょう。しかし、それでは救いがありません。

凡人であれその領域に辿り着ける、努力を積み重ねれば天才と同じ力を身に着けることができる、私はそう考えたいのです。けして難関校合格を頭のいい子やセンスのある子のものだけにしておきたくないのです。

私の意趣返しなのかもしれませんが、方法論を知ることで凡庸な成績だった子も非凡な成績を出すことができるようにしてあげたいのです。そしてその子は正しく努力することの意義を知り、将来圧倒的な結果を出すかもしれないのです。

 

だから、センスとか頭がいいという言葉に絶望せずに、その領域に到達するための道筋を示してあげたいのです。

一つの成功体験は人を変えると思います。その成功体験を小学生の段階で体感し、後の人生に役立てて欲しい、そう願って止みません。

次回以降も実際の問題を解きながら考え方や学習方法について話をしていきたいと思います。

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